黄色いベースにかけた想い【Hikaru.Y】

＊ ページ35

光くんのベース講座にもちょっと通い慣れた頃、
私はずっと気になっていたことを
お願いしてみようと試みた。

「あの、光くん！」
「ん？どした？」

ちょっと照れたような優しい笑顔で応えてくれる。
いつもこの笑顔に私の心臓は早くなる。
今日はちょっとだけ我儘言ってみた。

「今日はベースの話じゃなくて、
光くんの弾くベースが聴きたいです」

「…ふは、はいよ」

ちょっとびっくりした光くんだったけど、
快く了承してくれた。
心の寛大さも尊敬するところのひとつ。

「俺のベース持ってくるからちょっと待ってな」

軽く頭ぽんぽんして
お店の奥に自分のベースを取りに行く後ろ姿は、
光くんだけどいつもの光くんじゃない気がして
ちょっと怖かった。

私には決して手の届かない、
どこか遠すぎる所に行ってしまう気がして｡

戻ってきた時手にしていたのは、
去年まで私が下校中にずっと見ていた
あのベースだった。

「よいしょ。じゃあいきますよ？」

ベースを構える姿がかっこよくて、
胸がズキンと痛む。
この痛みの意味に気づくのはもう少し先の事。



「…っ、」



凄い。
音が心に届く。

自分のやっているベースが何なのか
わからなくなるくらいに感動した。
念願の光くんのベースが聞けて私の心は
リズムに乗って弾んでいる。



…？



なんだろう…
ちゃんと聞くのは初なのに、懐かしい｡

この音を私は知ってる。

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