Winter love story ３

046 隆二 eyes ページ46

..R..



────･･･ おつかれ今市。どうした？




耳に響く、優しい声。



この声は生まれ持ったモノなのか、それとも生きてきた上で後からついてきたモノなのか･･･


前者じゃどうにもならないし、後者なら俺なんてまだまだ手に入らない。





「相談、したいことがあるんです･･･」





すぐにATSUSHIさんは時間を作ってくれた。


夜、レコーディングルームに来いと言われて･･･


その場所を選ぶということは、俺が話したかった内容がお見通しだということ。


やっぱりわかってたんだ。


きっと臣も、わかってるんだろうな。







おつかれ様ですと頭を下げた俺に「もっと早く来いよ」と微笑んだのは多分、いまこの瞬間のことじゃない。


もっと早く相談しに来いよ、って言ってくれたんだと思う。






そして時間をかけて、歌に悩んでいる気持ちを聞いてもらった。


ATSUSHIさんは俺の言葉が尽きるまでずっと頷くのみで。


それが余計に俺の心を楽にしてくれた。






すべて話終わったあと。



「今市、ちょっとコレ歌って見ろよ」



そう言われて渡されたのは、ATSUSHIさんのソロ曲“いつかきっと” の歌詞だった。






.






誰かが光失って、涙がそっと溢れて、

自分の無力さを感じて。


それでも何か少しだけ分けてあげたい思いが優しさになって、身体中をめぐってく･･･







.







歌い終わった俺にATSUSHIさんが静かに言った。




「今市の不調は、喉じゃない」





喉じゃない･･･？

こんなに声が出しにくいのに？





────･･･歌詞、よーく読んでみろ。


誰かひとりくらい、思い浮かべる人がいるだろ？


友達でも、家族でも、恋人でもいい。


お前がいま、手を差し伸べたいと思う人間を思い浮かべながら、歌うんだよ────






心を込めて歌うのなんて、基本中の基本。


そんなのずっと守ってきたはずだった。


だけどどんな歌も、実際には俺の想像の域でしかなくて。


誰かを思い浮かべたことなんて･･･


なかったかもしれない。




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