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5：夜の部屋 ページ5
「うぁッ、やめっ、許しッ」
カーテンが潮風に揺れて窓際の花を撫でた
開き掛けの蕾は開花の時を待たずして
地面に落とされ頼りなく転がった
「お前の所為だからなッ！俺を怒らせた！」
「ごめ、なさっ、いッ」
男の怒号が小さな部屋にこだます
男の怒声が壁同士で共鳴して鼓膜を震わした
拳が柔肌にぶつかり鈍い音を出す
その度に嗚咽が漏れ出す口からは血の泡銭が浮いた
「なぁ、俺はお前を愛してるんだ
分かるだろ？なぁ？」
「ぅん…ごめんなさい」
薄っぺらくも重い愛を説きながら
男が愛おしそうに赤黒く腫れた頬を撫でると
その手に傷だらけの掌を優しく這わせられた
「もう寝よう、おやすみ」
「うん…ごめんなさい…おやすみ」
漆黒の夜空に包まれながら眠りについた
今日は空に星は出ていない
ただ街灯は寂寞とした部屋を照らした
すっかり爛れてしまった自身の拳を強く握り直して
男はバスルームへと向かう
傷付いた恋人を残して
「お前の記憶も身体も、全部俺のモンだ」
逃がしはしない─────────
男は静かに部屋のドアをそっと閉めた
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作者名：行方不明者X | 作成日時：2020年5月23日 22時
