四ツ目神 Ⅱ【JW】 (ページ35)

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桃「A。何突っ立ってんのや」

私が池の前から動こうとしないのを見て、望は疑わしげに言った。

桃「あんまり池に近づくなって言うてるやろ」

「ねぇ望、望はここから出られないの？」

桃「急にどうしたん」

「お願い、こたえて」

桃「……ッ」

望は一時言葉に詰まったようにたじろいだが、冷静に返した。

桃「俺は四津村から出ることはできへん。ここで産まれてここで死んだ。俺の居場所はここだけや」

「出たいと思ったことはないの？」

桃「………もちろん、ある。生きてこの神社や村以外の、広い世界を見ることができるんやったら──」

そこまで言って、望は首を振った。

桃「でもそれは、俺にとっての彼岸や。たどり着くことのできへん憧れで、とうの昔に諦めはついとる」

望にとっての彼岸。それが私にとっての当たり前なんだ。

「望はそこにいて」

桃「は？」

「望はそこで見てて」

桃「見ててって、何するつもりなん」

「望を、助けたいの」

桃「……は？」

望は困惑しているようだった。

桃「誰が誰を助けるって？」

「私が、望を助けたいの」

桃「逆やろ、何言うてるんや。寝言は寝て言いや」

「寝言なんかじゃないよ、望」

ようやく私が本気だということを理解したのか、望はやや表情を固くした。

桃「どういうことや、説明しろ」

「私は、望が死んでしまうこんな世界、間違ってると思う」

桃「間違ってると思うから何」

「だから私は、過去をかえて望を救う」

桃「過去をかえるって……

おい、まっ────！」

言葉を途切れさせ、ドサッと音をたてて望が倒れた。

「え？」

「させへんで、マイちゃん」