天まで届く。【九条天】 (ページ16)

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料理が運ばれてくる間に、そこまで会話していないと思う。
でも不思議と、落ち着いた空間でいられる。天の顔を見る度に、心臓は波打つけれど。

「……何、言いたいことがあるならハッキリ言いなよ」

「いや、別に……」

「そう、ならあんまり見ないでね。キスしたくなるから」

ダメだ、この人には敵わない。
言われていちいち赤くなる自分が嫌いだ、もの凄く。

「…なんで個室にしたの？」

「言わなくてもわかるよね？」

「わからないから聞いてるんだけど」

「綺麗な彼女を他人に見られて群がられるのは嫌だから。
後は、キスするためにね……

食後か今か、どっちがいい？あ、関節キスは含めないで」

嫌いだ、いじらしい。ただのドＳの極みじゃないか。

1発目のキスからもうディープキスなんて、いつの間に大人になったのか…私が人を追いかけている間、天はここまで成長していた。
……前を、向かなくちゃ。

目の前から逃げるんじゃなくて、向き合うだけでいい。それだけでちがう気がする。

間がいいのか悪いのか、時計のように正確な感覚で、ノックの音が聞こえた。

「失礼致します、こちら……」

カタカナのお洒落なメニューの名前を、サラサラと噛むことなく読み上げていく店員さん。

全てのメニューをテーブルに並べられ、「それでは、心ゆくまで……」とドアを閉められる。

「これが1万円…味わわなきゃ……」

「どうせ払うのは僕なのに？」

「待って、割り勘じゃないの？」

「授業料浮かしてるんじゃないの、僕だってちゃんと働いてるんだから。ね？」

ぐうの音も出ない。バイトをしながら通っているので、財布はほとんど涼しい状態だ。
貯金もしているので、特にカツカツな生活をしていると思う。

「その代わり、次はAの手料理が食べたいな？」

反則だ、そんな上目遣いな甘い顔して。
断れないのを知ってるから、やってくるのだ。

2人きりの時は特に甘えたで、昔から心臓が持たないことが多かった。
……勿論それは、今でも変わらない。

そうやって私は、彼に落ちていくのだ。