episode 29:真名返還 ページ32
瓦礫の衝突により屋敷は全壊。その中私はまずお祖母様の安否を確認しに行った。
所詮は幻だと頭の隅では分かっている。全てが上手く終われば消えてしまうものだと理解している。
それでも助けたかった。せめてこの
ドミノのように倒れた壁の下にお祖母様を見つけた。まだ息はあるようだ。
「___ちゃん……?」
あぁどうして、どうしてまだ名前だけが聞こえないの。瓦礫が崩れる音もお祖母様の荒い呼吸も、全部全部聞こえるのに!
「___ちゃん……よく聞いて、お祖母ちゃんはね、本当は幽霊なの……黒い貴女が作り直せる体をくれた幽霊なの……」
息を呑んだ。作り直せる体、つまりお祖母様が死んでもオルタが聖杯で作り直せてしまう。それはもう不死も同然だ。
「じゃあやっぱり、お祖母様もこの世界の方がいいの……?そうだよね、ずっと生きていられる方がいいよね。お祖母様が望むなら_____」
「いいえ、生き返るなんて望まないわ……人間として死んで輪廻の輪を廻っていたい」
告げられた言葉が胸に突き刺さった。私が人ではないと断言されたようで、返す言葉が見つからなかった。
「貴女が人じゃないってことじゃないの……貴女は立派な人よ。だって……ちゃんと前が見えているでしょ?昔の貴女は、何も見えていないようだったから……」
冷えた手が頬を撫でる。かさついた、少し骨張った手の感触が本当に懐かしく思えて、言葉にならない感情が涙になって溢れた。
「もう時間もない……最後に貴女に、大切なものを返すね……黒い貴女が盗んだ、大切な……貴女の名前を」
「A、貴女の名前はAよ。Aちゃん、貴女が本当に、守るべき……ものを……どう、か____」
最後の言葉は天使が攫っていった。
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作者名:巳月 要 | 作成日時:2017年12月25日 22時