episode 19：前兆 ページ21
ある夜立香は夢を見た。
舞台は山奥の小さな村。今宵は新月か､流れる松明の行列が良く見える。
流れの先には小さくも厳かな雰囲気の社。人々に彼の姿は見えていないようなので立香はその先頭を覗いてみた。
花々で飾られた寝台の上に少女が横たわっている。足枷をはめられた右足の先が青白くなっている。何とも痛々しい姿だと彼は目を伏せたくなった。
神主らしき者が前に出ると同時に人々は跪いた。さっきまで空いていた片手には柊の葉を持っている。
神主が手に鏡を持ち祝詞を唱え始める。すると鏡から黒い靄が出てきた。
それは少女の周りを数回回ると､丁度彼女の心臓の辺りにすうっと潜り込んでいった。
少女はもがき苦しむ。波打つ鎖が花を蹴散らす。けれど人々は狼狽えることなくただひたすらに柊と共に祈りを捧げる。
苦しむ少女の左半分に文様が浮かぶ。見開かれた藤の双眸は左だけ琥珀色に変化した。
天を仰ぐ少女の掠れた声が確かにこう言った。
“たすけて…”
それが聞こえた瞬間夢は終わった。
目が覚めた彼のシャツには汗で大きなシミができている。呼吸も荒い。
少し歩こうと彼は部屋を出た。もしかするとドクターが息抜きにコーヒーなんか飲んでいるかもしれない。ご馳走になりに行こう。彼の足は医務室を目指した。
｢あれ､藤丸くんじゃん。こんな時間にどうしたの?｣
しかし医務室にいたのは彼と同い年くらいの制服と白衣に身を包んだ少女だった。
｢あぁごめん。ロマニじゃなくて驚いたよね。私もここの職員で､医療系のNo.2。ロマニの右腕ってところ。今彼仮眠とりに行ってて私が留守番してるの｣
慣れた手つきでコーヒーを淹れる彼女に戸惑いながら､立香はそれを飲みつつさっきの夢の話をした。
｢うーん､グラフ見ても特に異常はないし､きっとサーヴァントとリンクしてるんだね。誰かはわかる?｣
｢…はい､心当たりがあります｣
文様に琥珀の目ときたら彼女しかいないと彼はふんでいた。
｢なるほど。きっと近いうちにその心当たりのある子関係で何かが起こるよ。幸福の前触れか不幸の前兆か､まぁもしものために用心した方がいいかもね｣
じゃあ戸締りよろしくね。と少女は鍵を残し出ていこうとした。
｢あ､先に行っておくけど､私の予想だと不幸が訪れるよ。じゃ､人類最後のマスターに､海の加護があらんことを｣
｢まっ待ってください!貴女は…｣
その問いに彼女はこう答えた。
｢ただのしがない魔術師さ｣
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作者名：巳月 要 | 作成日時：2017年12月25日 22時
