【オリジナル掌編・SS】ひととせと月 (ページ10)

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9、メイドにまつわる云々。（メイドの日SS）ページ10

わたしはメイドさんに憧れていた。白と黒のメイド服はふりふりひらひらで可愛くて、夢が詰まったものだと思っていた。けれども、メイドの現実を知ってからは、そんなことは言えなくなってしまった。あれは大学の講義で聞いた話だ。
　そもそもメイド服は産業革命以降、中産階級の興隆によって、雇用主と被雇用者の関係の大きな身分の差が薄くなったことに起因するようだ。対照的なのが中世の侍女である。主人といえば貴族、侍女といえば農民の娘で、絶対的な身分差ゆえにメイド服を作る必要がなかったという。だが領地の中での話なので侍女も庇護対象であり、貴族の屋敷で大きな家族のように過ごしていたという。だから侍女は女主人のお下がりを着ることもあったようだ。この身分差が薄くなるとどうなるか。その答えがメイド服にある。中産階級は土地を持たず、メイドは雇うが庇護対象ではない。だから「身分の違いをわからせる」ためにメイド服が生まれたらしい。白と黒は夜用で、実は掃除などをするために昼間のエプロンの下は薄い色のワンピだったという。そして重要なことに、スカートは普通踝よりも下の丈だし、エプロンだってあんなにふりふりひらひらしたものは客間メイドくらいなものだろう。
　メイドは人扱いされず、主人と口をきくのも良くないこと。古い映画では確かに目も合わせない様子だった。メイドにも役職があり、食器洗い等のメイドと客間メイドなど様々あったようだ。もちろん後者がより地位の高いメイドである。
　こう思うと、メイドと呼ばれた人々がどれだけ大変だったかと考えなければならなくなる。でも良いことか悪いことかわからないけれど、メイドの根本には、どこか魅力的なものがある気がする。厳しい世界や陰を知って、それでもなお寧ろロマンさえ感じて今日もクラシカルメイド喫茶に足を運ぶ。

10、皐月咲く窓辺→←苦い。(2/2)