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2、弥生に想う ページ2

例えば今までの選択肢をひとつ、今と違えることができたなら。そうすれば、私はどうなっただろう。
 三月は別れだと、人は云う。けれども、その別れに救われることも少なからずあると思う。
 同じ場所で同じ人たちと長く過ごしすぎると、どうしても均質化が起きる。だから、出会いと別れがあることは良いことだ。
 それは頭ではわかっていても、心ではわからない。だって、そのお別れは、憧れとの別れだから。

「先輩」
 私は涙をこぼしながら、先輩に抱きつく。先輩も、潤んだ瞳で抱きしめ返してくれた。
「先輩! 私、絶対に同じ学校に行きますから! 待っていてくださいね」
 泣かないように、目に力を入れて、精一杯強がる。それでも、ふとした瞬間に、こぼれてしまう。
「いいよ。待っておいてあげる。だから、こっちまでちゃんと来てね?」
 安息の時間だった。先輩は、私を好きでいてくれる。こんなにも確実な「好き」は、今までの誰からも受け取ったことがない。
 例えば、私がもっと勇気を出していたら。例えば、私がもう少しだけ自由奔放でいられたら。
「先輩。私、先輩のいない学校なんて最早意味がないって、思ってしまうんです」
 うん、と先輩は私の背中をさする。心地よいリズムが、身体を通して伝わる。
「先輩は私の憧れです。けれども私は、これ以上の気持ちがわからない。でも、また逢いたいのは確かです。絶対に、絶対に答えを見つけます」
 怖かった。答えが見つけられない自問自答を繰り返していた。でも、こんな答えにしかならなかった。私は、我儘だ。
 先輩はふっと微笑う。
「いいよ、今はそれで。次に会ったときまでに見つけておいてね?」
 今はこのままお別れしておくから、と先輩は立ち去ろうとする。
 ――嫌だ。
 その思いが身体中を支配する。気づけば私は、先輩の袖を掴んでいた。
「嫌です。別れたくない。いや……」
 号泣する私を見兼ねたのか、先輩は再び背中をさすってくれる。先輩が刻むリズムが心地よい。それで気づいた。もう、今までの答えじゃいけない。
「せ、先輩」
 なに、と優しく聞き返してくれる。
「ようやく分かりました。我儘でごめんなさい。――私も、先輩のことが好きです」
 ありがとう、と先輩は晴れやかに笑った。

3、泣かないで→←1、玄月の君



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作者名:糸田 | 作成日時:2021年3月13日 21時

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