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「その時は家で、1人で、いつもより早く寝て、次の日には頭痛いのとか苦しいのとか治ってて」
神「うん、」
「だから、大丈夫やと思った」
Aの面持ちが強ばっていくのが分かる。
「せやけど、すぐ目眩するし、激しい運動してへんのにすぐ息切れるし、なんか怖くなって、」
「撮影始まった頃やし、ライブの打ち合わせもダンス練習も休めんし、大丈夫やろうって言い聞かせてた」
「でも、だんだんその間隔も短くなって、どうしようって、」
思っているよりも現実は深刻だった。こんなに、不安やったのに、気づいてあげられへんかったんや。Aの震える声を押し付けるように胸に刻んでいく。
「なっちゃんと重ねてまう、」
“なっちゃん”はAが映画の中で演じている白血病を患った女の子。
「私、どうすればいいん、」
俯くAを抱きしめる神ちゃんと何も出来ない俺。照史は必死に言葉を探しているようだった。
桐「不安やったよな。ごめんな、俺らなんも気づけへんくて」
Aが首を横に振る。
桐「どうしよっか、どうしたい?Aは」
「………わからへん」
か細い声でそう呟く。
桐「今日は…」
「今日はやる、」
桐「明日は、学校?」
「うん、」
淡々と話を進めてくれる照史がいて良かった、と心から思う。俺には出来ない。
桐「学校お休みしてさ、病院行こ、?」
「でも、べんきょ…」
桐「Aは思い詰めすぎなんやて、勉強も仕事もちゃんと出来てるから、あとは余裕持つことやで」
「余裕…」
桐「火曜日また来るんやろ、こっち」
火曜日はバラエティの撮影で学校を休んで東京に来ることが多い。
桐「せやから、明日もおやすみして、東京おれば?」
「……っと、」
Aのスケジュールはキチキチで仕事だけこなしてる俺らよりもずっと大変や。でも、もう大人、俺がデビューした年と同じや。大切なことは自分で決めるはず。
「…………分かった、」
絞り出すかのように出てきた承諾の言葉は不安の色が混ざっている。
桐「俺明日オフやから、一緒に行くわ、」
神「ん、よろしく頼むわ」
照史が見ててくれるみたいやからとりあえず安心やわ。
ス「失礼します。皆さん、よろしくお願いします!」
俺らは撮影を続けた。少しでもAの意向に沿えられるように。
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作者名:いと | 作成日時:2023年9月7日 13時