■ concern ページ4
.
前の職場でクビになったと言えども、A自身に問題があるわけではない。
それを証明するかのように、彼女はまだ慣れない仕事をそつなくこなした。
同じ教師、という面では慣れないという言葉は不適切かもしれないが。
『ブラドキング、その資料なら私が作っておきますよ』
「ああ、頼む。できれば明日までにお願いしたいのだが」
『ええ。明日の朝にはお渡しします』
少しだけ、違和感があった。
昔のAはそれほどまでに人を気にかける人間ではなかった。
誰かを助けようとするその姿はヒーローになったが故なのか、はたまた別の理由があるのか。
山田も少し、怪訝そうに見ていた。
時間も過ぎ、教師たちも帰宅。
職員室は静寂に包まれていた。
「お前、働き過ぎじゃないか？」
『お前こそこんな時間まで残ってるだろ』
「俺は仕事が終わってないんだよ」
『そのプリント、人数分印刷しておくから置いといて』
聞こえるのは、カタカタというキーボードを打つ音ばかり。
いつだって、無理に聞き出さなければ話さなかった。
だから今もそうなのかもしれないと思う。
ここに来るまでに頼れる人間がいなかったなら尚更。
「何かに気を揉んでいるんだろうが、休息を取らないのは合理的じゃない」
『……相澤。お前は私を心配し過ぎなんだよ』
「お前が心配させ過ぎなんだ」
『それは、まぁ……ごめん』
別に、Aがわかりやすいわけではない。
むしろ表情は変わらないし、読めない人間だと思う。
だが親しかったからこそ、絶対に何かを隠しているという確信があった。
理解していたから一層、追い詰められているように見えた。
『本当はあるんだ、聞いて欲しいことが』
「聞くよ、いつでも」
『……うん、ありがとう』
すぐに話さないのは、自分でも噛み砕けてないからだろう。
でも、それでもよかった。
いつか話してくれるなら、それでよかったのだ。
「じゃあ、俺も帰る」
『ああ、また明日』
「明日はお前もやることがあるだろう。早く帰れよ」
『わかってるよ。それに個性使用訓練ならお前もいるし大丈夫でしょ』
夜も更け、もはや残業の域。
一向に終わりそうのないAの仕事ぶりに、ため息をついた。
とはいえこれ以上何を言ってもあいつは流すだけで終わる。
職員室の扉を閉めた後、若干の頭痛に見舞われた気がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 84人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽん、(プロフ) - Ableさん» ありがとうございます！一気に更新してしまったのですが、思い入れがある話だったので嬉しいです！ (2020年8月18日 18時) (
レス) id: 97d132fcbf (このIDを非表示/違反報告)
Able(プロフ) - 完結おめでとうございます！一気読みしてしまいました。綺麗事だけではない話でとても切実で、読んでいて感動しました。二人の幸せを願うばかりです。面白い小説をありがとうございました！ (2020年8月18日 11時) (レス) id: cf9458e2c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽん、 | 作成日時：2020年6月13日 0時
