この恋、もしかして遅延しますか？ (ページ1)

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確かあれは、寒くて寒くて凍えそうなほどの冬の日のことだったと思う。

「あの、これ落としましたよ」

目の前にポトンと落ちた名札

すぐに拾って、落とした張本人に声をかける。

「わ、ごめん、ありがとう…！」

携帯の画面を見ていた少し小柄な彼は俺の声に反応して顔をあげた。俺を見上げるその顔は、17年生きてきた俺も見たことがないくらいに整っていた。

まさに生きる彫刻

その言葉がピッタリなくらいに。

「俺すぐ落し物しちゃうんだよ…、」

そう言ってもう一度俺に微笑んで、ありがとう、なんて言ってぱっちりとした目が少し細くなる。

…こんな人、このバスに乗ってたんだ。

バス通学は2年目なのに、全然知らなかった。

「名札、顔写真も載ってるから、気をつけてくださいね、」

「へへ、ほんとだよなー…あ、俺降りるわ！」

最後に礼儀正しく、深々とお辞儀をした彼はバスから降りていった。

…わー、やばい。これはやばい。

「って…」

彼が立っていた場所に落ちている、会社の名前が入ったボールペン。

危機管理というものはないんだろうか、なんて思いながらそのボールペンを学校指定のバッグに入れる。

同時に、明日も話せる口実を作れたことに嬉しさを感じているあたり、

やっぱり恋に落ちたのは、その日かもしれない。

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