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ab「だから照、お前は戻って来なくていいよ」
冷静さを取り戻した阿部は、再び微笑みを貼り付けると岩本にそう言った。
ab「ふっかは戻ってきて欲しいみたいだけど、戻って来なくていい。俺がずっと傍にいるから。ふっかが何処まで堕ちても、俺はずっとついて行くから」
阿部は表情を変えずに続けた。
ab「その代わり……死んでくれる? 今ここで」
岩本が目を見開くのと同時に阿部はポケットから折り畳みナイフを出した。その刃を出すのと同時に、阿部は岩本に能力を発動させた。
iw「阿部……」
ab「照ー。照なら出来るよね。自分でー、首をー、ざくーって。お前なんかのために俺の手汚したくないからさ、ちゃんと自分でやって?」
妙に楽しげな口調になった阿部は、岩本の目の前にナイフをちらつかせた。
岩本も阿部と一緒にいたので阿部の能力には慣れている。そう簡単には阿部の能力は効かない。
しかし、「慣れている」だけであって「全く効かない」訳では無い。阿部が色濃く色香を漂わせれば、岩本だって阿部の言いなりになる。
iw「……やめろ、」
ab「ほらあ、早くやって? 返り血くらいは浴びてあげるからさ」
岩本は必死に抗うものの、彼の腕は意に反して阿部のナイフに手を伸ばす。激痛が岩本を襲うも彼の腕は止まらない。
iw「い……っ、」
ab「あはは……! その調子その調子」
岩本の手がついに阿部のナイフを受け取った。その手が次に向かうのは、岩本の首。
岩本は歯を食いしばってひたすら抵抗した。その甲斐あってか岩本の腕が宙で止まる。
それを見た阿部は笑みを消し、一瞬で怒りを表した。
ab「……早く刺せよ」
iw「阿部、」
ab「早く刺せ! 俺の言う事を聞けよ!!」
岩本の腕が徐々に引き付けられていく。阿部はよっぽど早く死んで欲しいのか、我慢の限界だと言うように叫んだ。
ab「早く刺せ! 早くッ」
iw「……っ、」
ab「さっさと死ねよ!!」
ついに岩本の首に刃が宛てがわれた。後はそれを引くだけだ。
岩本はついに目を閉じた。腕の力は抜けない。ぼろぼろの体では抗うのももう限界だ。
__俺が死ねば、もう誰にも迷惑をかけずに済むかもしれないし。
「何してるの……?」
突然岩本の腕が首から離れ、そのままの勢いでナイフが投げ出された。阿部が能力を解除したのだ。
それは声の持ち主が、阿部が今一番会いたくない相手だったから。
sk「ねえ阿部ちゃん……何してるの……?」
自分が「異端」だと知られたくない相手だったから。
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作者名:怜 | 作成日時:2020年11月16日 20時