#2 ページ15
宮舘が一人で営業を続けていると、二階から誰かが降りてくる音がした。
佐久間だろうか。昼に向けて常連が何人か集まり始めている今、体調が良くなったのであれば少し手伝って欲しい。そんな事を宮舘は考えていた。
しかし、降りてきたのは佐久間ではなかった。
ru「舘さん、」
dt「……ラウ?」
宮舘は思わず振り返った。ラウールが自分の意思で部屋から出てきたのは久しぶりだったからだ。
目黒が消えてからというもの、ラウールはすっかり塞ぎ込み、食事もろくに喉を通らない生活をしていた。
目黒が岩本を襲った日は酷く泣き叫んだが、それ以外は心ここに在らずといった様子で、まともに会話もできない事も多かった。
そんな彼が急に宮舘の元に現れた。宮舘は何か起きたのだと解釈した。
dt「……どうかした?」
ru「照くん、」
dt「照?」
ラウールは俯きがちにそう言うだけ。
宮舘はラウールを焦らせないよう気をつけながら、話の続きを促した。
dt「照が……どうかした?」
ru「……いなくなっちゃう、」
dt「え?」
その言葉には流石の宮舘も眉を顰めた。
宮舘は常連に断りを入れ、立ち尽くすラウールの元に寄った。
dt「ラウ、どういう事?」
ラウールは目を泳がせながらか細い声で話す。
ru「照くん……いなくなった」
dt「いなくなった、って」
ru「一人で、出ていっちゃった」
dt「……出て行くのを見たの?」
ru「さっき、裏口から出ていった」
宮舘は舌打ちをしそうになった。
岩本が一人で何処に行ったのか。そんなの、深澤の所に決まっている。彼は向井に深澤の居場所を聞いてからすぐに行動を起こしたのだ。
宮舘と佐久間と三人で行くと言ったのに、一人で。
ru「どうしよう……照くんも、いなくなっちゃうの」
dt「ラウ、」
ru「みんな、いなくなっちゃうの……?」
dt「ラウ」
ru「そしたら、僕、どうすればいいの……?」
ラウールは床に目線を落として声を震わせる。宮舘は堪らずラウールを抱き締めた。
dt「いなくならないよ、」
ru「本当?」
dt「いなくならない。俺がみんな連れて帰る」
宮舘はラウールの背中を撫でながらそう言った。決意を固めるのに時間は必要なかった。ラウールをこれ以上悲しませてはいけない。
佐久間にも声をかけるべきか。いや、体調が悪いなら無理をさせるべきでは無い。
dt「ラウ、お留守番出来る?」
ru「……うん、」
dt「よし……必ず帰ってくるから」
宮舘は、客に金はいらないと言い残し、営業中の店を飛び出した。
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作者名:怜 | 作成日時:2020年11月16日 20時