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「…だ?山田ー?」



いのちゃんの声にハッとして現実に引き戻された。



「…ん?」



「『ん?』じゃないよー。手、止まってたけど。大丈夫?」




そうだった。夜ご飯の準備の途中じゃないか。




手元には溶きかけの卵が白い泡をプツプツ浮かべてて、炊飯器は美味しそうに白い湯気を立てている。




「大丈夫に決まってんじゃん(笑)」


笑顔を作って返せば



「ふーん」


と興味無さそうにソファに戻っていった。









--




「出来たよー」




ダイニングとは別にある、大きめの食卓に夜ご飯を並べていのちゃんを呼ぶ。



「ほーい」とゆるい返事が聞こえて、2人向かい合って席に着く。



「うわっちょー旨そう」



いただきます!、と元気に手を合わせて鯖の味噌煮を口にほおばる。


「…美味しい?」



頰張りすぎて答えられないらしく、俺の問いかけに目をまぁるくさせてこくこくと頷く。



おれの作った料理が
ひと口ひと口いのちゃんの口に消えていくたび、


この部屋に立ち込めていた救えない憂鬱もひとつひとつ、消えていくみたいだった。



「いのちゃんてすごいね。いのちゃんて、大きいね」



「そりゃそうだ、173だもん」


「そういう意味じゃねーよ(笑)」




「…俺からしたら、すごいのは山田だよ?


俺、山田のおかげでここにいるもん。

山田が、俺を呼んでくれたんだよ。

だから、戻らなきゃ、生きなきゃって思えたんだよ」


「…ほんとに?」


"俺が悪い"
"俺のせいで"

その感情がまた俺の中で疼き始めて、思わず聞く声が小さくなる。



「本当だよ」


そう言っていのちゃんは俺を安心させるように柔らかく笑った。



きみに、俺がどれだけ救われているかなんてきみが知るはずもないね。




神様。

もう言わない。

独りでいいなんて、嘘でも言わないよ。



いのちゃんがいなきゃダメだから。




「いのちゃんの沼は深いなー…」



「だろ?」




ニヤッと笑うその顔が可笑しくて思わず噴き出せば、部屋は2人の笑い声で包まれる。


その声で魔法みたいに世界は作り変わって

憂鬱は、ひとつ残らず消えてしまった。





間違いなんかじゃない。

未来は明るいに決まってる。




だって、こんなにも世界は幸せなんだから。


明日もまた、素晴らしい日常がやってくる。


fin.
______________________________

「メランコリーキッチン」 米津玄師

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(プロフ) - 白米と猫さん» 返信がめちゃめちゃ遅れました…!ごめんなさい…! 読んでいただきありがとうございます!! 最後の方がグダッてしまいましたが、私自身ニヤニヤしながら書いたので白米と猫さんにも楽しんでいただけて大変嬉しいです^ ^ (2017年1月9日 22時) (レス) id: 53968e2e24 (このIDを非表示/違反報告)
白米と猫(プロフ) - クリスマスのやまいの最高です!! (2016年12月26日 0時) (レス) id: f122806c5b (このIDを非表示/違反報告)
ゆり - とても面白いです(^o^)いのやま好きなので案Aがいいです!更新楽しみしてます! (2016年7月28日 2時) (レス) id: 41358da221 (このIDを非表示/違反報告)
しおり - どちらも素敵なのですが、案Aのやまいのの続きが気になるのでAを希望します! (2016年7月3日 23時) (レス) id: 83528b9846 (このIDを非表示/違反報告)
いのやま - 案Aがいいです!いのやまの続きが読みたいです! (2016年7月3日 23時) (レス) id: 894b723aeb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2016年5月1日 23時

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