◆ ページ9
今日の練習も無事に終わった。
ヒロトが練習に参加し始めた当初は、ヒロトからのパスというよりシュートに近い威力のボールを受け、毎日負傷する選手が出ていたけど。
今ではそんなことも無くなった。ヒロトが加減を覚えたというより、皆があのパスに慣れたのだと思う。皆の柔軟な適応力は尊敬に値する。
「毎日ご苦労なこったなぁ」
「…なに、ヒロト」
タオルの洗濯が終わるまでの時間、器具庫にあるボールを磨いていた。そこに、この場所とは一番縁が無い男が入ってきた。低く響く声が、私の手を止める。
準備にも片付けにも参加しないヒロトが、わざわざ器具庫に近づくことなんて今まであったのだろうか。
「へぇ、ここ、思ったより片付いてんだな」
当たり前だ、私が整理しているのだから。学校にあるどの部活の器具庫よりも綺麗だし使いやすい自信がある。
思いながら、私の質問は無視かとその顔を見る。ヒロトは目が合うなりふいと逸らして私の隣に豪快に座った。
「…手伝ってやるよ」
「どうしたの、珍しいな」
「うっせぇな…今日の詫びだ」
そう言うとヒロトは私の手からボールとタオルをふんだくった。空になった私の手が、器具庫の蒸し暑い空気を掴む。
きっと朝私がすっ転んだ時のことを言っているのだろう。あれは私の不注意でもあるから、特に気にしてはいなかったのだけれど。
もしかするとタツヤに、お詫びがてら私を手伝ってくるよう言われたのかもしれない。
「本当に良いの？」
「それ以上言ったらやんねぇぞ」
「…ありがとう」
ヒロトのお陰で手が空いた。私は部室に戻り、先に自分の荷物をまとめてしまうことにした。その後、洗い終わったのタオルを干そう。
「じゃあ、そこのボール全部頼む」
「…は？これ全部かよ？」
ボールカゴに入ったボールを指差して、私は笑って見せた。してやったり、という含みを込めた笑みを顔に張り付けて。
「汚れてないのは拭かなくて良いから」
捨て台詞を吐くようにヒロトに手を振り、器具庫から飛び出した。
本当は殆ど全部拭き終わっているから、ヒロトの仕事なんて精々手に持ってたボール一個だけなのだが。
そんなことも知らず、ドアの向こうから怒鳴るヒロトの篭った声を背中に受け、悪く思いつつ私は小さく笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 87人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狩間篤花(プロフ) - narutokun0531さん» コメントありがとうございます。長い間私の作品を見てくださって本当にありがとうございます…！これからもお褒め頂けるよう精進して参ります(*^^*) (2019年5月6日 8時) (
レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
narutokun0531(プロフ) - 初コメ失礼します。単眼のセレーネからずっと読んでます。シリアスと甘い恋愛を絶妙に書き分けられる作者様がとても羨ましいです。この小説も読んですぐに気に入ったのですっ！！応援してます、更新頑張って下さい！！ (2019年5月5日 12時) (レス) id: a9d6e0cd93 (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 輝夜さん» はじめまして(* ´ ▽ ` *)一気読みしていただけるなんて…嬉しい限りです。ありがとうございます(*^^*)お声に答えられるよう、出来るだけ早い更新を心がけたいと思います！ (2019年4月30日 17時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
輝夜(プロフ) - はじめまして！夢主ちゃんもヒロトも可愛くて尊いです(´；ω；｀)最初から一気に読みました！これからも更新頑張ってください！！ (2019年4月28日 23時) (レス) id: ad533fb363 (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 蓬莱山 輝夜＊さん» コメントありがとうございます。私も新シリーズを見てヒロト君に惹かれてしまった者です( ´-｀)更新頑張ります。 (2019年3月28日 11時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：狩間篤花 | 作成日時：2019年3月16日 6時
