◆ ページ49
「…うおっ」
半分飛び込むような形で、ヒロトの背中に抱きついた。驚いたような声が降ってきて、ヒロトはそのまま立ち止まる。
細いけれど、たくましい背中。私の体重が飛び付いてきたって、少しもバランスを崩さなかった。きっと痛くも痒くもないのだろう。
「…昨日の仕返し」
私はそんな風に呟いて、丁度ジャージの青と白が切り替わる所に額を押し付けた。少しだけ、新しい服特有の科学的な匂いが鼻に抜ける。
ギュッと、ジャージの裾を握り締めて、目を瞑った。ヒロトの息遣いが聞こえる。
「…ヒロトが遠くに行ったってさ」
心臓の音がうるさい。こんなことを口にするのはらしくないけれど、今言わなければ。そんな自分自身の声が、私を突き動かす。
「私は…ヒロトだけの僕だ」
恥ずかしいことを言っているのは承知の上だった。だから、できるだけ小さな声で。
間も無く、ヒロトの背中が動いた。手を離しそっと見上げると、鋭い視線が私を捕らえて、桃色の瞳が細く弧を描く。
こちらを向きニヤリと笑ったヒロトは、ぐっと私との距離を縮め身を屈めた。
「…今の言葉、忘れんなよ」
そうして昨日と同じように耳元で囁く。柔らかな癖ッ毛が、悪戯に私の頬をくすぐった。ポッと火が点いたように、体が熱を持つ。
「ヒロ…」
「俺が戻ってくるまで、ちゃんと待ってろよな？」
そっとヒロトの手が頬に触れたかと思うと、反対の頬に柔らかい感触が這った。同時に何かが小さく弾けるような音が響く。
それが、所謂リップ音だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
◆
「おはよう、二人とも」
お日さま園の前で私が車から降りると、待っていたのかすぐにタツヤが歩いてきた。その後ろに治先輩の姿も確認する。
私と入れ替わるように二人が乗り込んで、このまま日本代表キャンプへと向かうバスが待つ集合場所へと出発することになっていた。
ヒロトは座席に座ったまま車の発進を待っているが、少しの間だけ、タツヤ達との別れを惜しませて欲しい。
私はトランクから荷物を引っ張り出し、二人の隣に立つ。タツヤと視線が交わるとまた逸らしそうになるけれど、最後なのだから、と深呼吸をして切れ長の目を見つめ返した。
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狩間篤花(プロフ) - narutokun0531さん» コメントありがとうございます。長い間私の作品を見てくださって本当にありがとうございます…！これからもお褒め頂けるよう精進して参ります(*^^*) (2019年5月6日 8時) (
レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
narutokun0531(プロフ) - 初コメ失礼します。単眼のセレーネからずっと読んでます。シリアスと甘い恋愛を絶妙に書き分けられる作者様がとても羨ましいです。この小説も読んですぐに気に入ったのですっ！！応援してます、更新頑張って下さい！！ (2019年5月5日 12時) (レス) id: a9d6e0cd93 (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 輝夜さん» はじめまして(* ´ ▽ ` *)一気読みしていただけるなんて…嬉しい限りです。ありがとうございます(*^^*)お声に答えられるよう、出来るだけ早い更新を心がけたいと思います！ (2019年4月30日 17時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
輝夜(プロフ) - はじめまして！夢主ちゃんもヒロトも可愛くて尊いです(´；ω；｀)最初から一気に読みました！これからも更新頑張ってください！！ (2019年4月28日 23時) (レス) id: ad533fb363 (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 蓬莱山 輝夜＊さん» コメントありがとうございます。私も新シリーズを見てヒロト君に惹かれてしまった者です( ´-｀)更新頑張ります。 (2019年3月28日 11時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：狩間篤花 | 作成日時：2019年3月16日 6時
