6 主の優しさ ページ25
ふと私は目を覚ました。どうやらいつの間にか寝落ちしていたみたいだ。部屋は暗く、もうヒロトは居ない。
いつもの癖で枕元に手をやるが、硬い質感はどこにもない。そういえば携帯はリュックに入れっぱなしだった。
私はゆっくりと起き上がる。もう頭のずんとした重みはなかった。ベッド脇のリュックに手を突っ込むと、すぐ指先に薄い端末が当たった。
薄暗い部屋で、眩しすぎるほどの青白い光。目を細めて画面を覗くと、時刻はいつもの夕食の時間をとっくに過ぎていた。
そういえばお腹が空いた。私はお腹を擦った。その柔らかい素材の触り心地に、練習着を着たままなことを思い出す。
帰ってきてすぐにベッドに入ったから、何もかもそのままだった。少しベタついた感じがする髪に、私は顔をしかめた。
最悪だ。私は瞬間的に判断を下し、急いでシャワールームに走った。
◆
お風呂から上がると、夕方の重たい体が嘘だったような軽々とした足取りで廊下を歩いた。すっかり調子が戻ったらしい。
気分良くバスタオルで髪を乾かしながら自室の扉を開けると、消したはずの電気が点いている。そこにはソファに腰を沈めるヒロトの姿があった。
「おい、風呂入んなら言えよな」
「え、ごめん」
何のことか分からず謝罪を口にしたが、冷気の流れに乗ってきた食欲を掻き立てる匂いにすぐその意味を理解する。
「…ご飯、持ってきてくれたのか？」
「あぁ」
「そっか…わざわざありがとう」
さっきまであれだけ辛かったのもあって、ソファの前にあるローテーブルに置かれた夕飯に、どっと嬉しさが溢れるように笑みがこぼれた。
私はバスタオルを肩にかけたまま、もう何の躊躇もなくソファに腰を下ろした。手を合わせてスプーンを手に取ると、ヒロトが横で呟く。
「お前が勝手に体調崩したとはいえ…練習に付き合わせたのは俺だ」
だから面倒を見てくれる、ということなのだろう。
確かに、本当ならヒロトが私の面倒を見る必要は無い。この家には何人ものお手伝いさんがいるのだから。
口では簡単に表現できない、温かい気持ちでまた頬が緩む。
「本当、私が悪いのに…嬉しいよ」
私は本心を素直に口にした。今は、ヒロトに何か冗談を言ったりからかったりする気は少しも起きなかった。
ヒロトの優しさに触れて、ただ幸せだった。
「…さっさと食えよ、冷めるだろ」
ヒロトはそっぽを向いて、そう言った。
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狩間篤花(プロフ) - narutokun0531さん» コメントありがとうございます。長い間私の作品を見てくださって本当にありがとうございます…！これからもお褒め頂けるよう精進して参ります(*^^*) (2019年5月6日 8時) (
レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
narutokun0531(プロフ) - 初コメ失礼します。単眼のセレーネからずっと読んでます。シリアスと甘い恋愛を絶妙に書き分けられる作者様がとても羨ましいです。この小説も読んですぐに気に入ったのですっ！！応援してます、更新頑張って下さい！！ (2019年5月5日 12時) (レス) id: a9d6e0cd93 (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 輝夜さん» はじめまして(* ´ ▽ ` *)一気読みしていただけるなんて…嬉しい限りです。ありがとうございます(*^^*)お声に答えられるよう、出来るだけ早い更新を心がけたいと思います！ (2019年4月30日 17時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
輝夜(プロフ) - はじめまして！夢主ちゃんもヒロトも可愛くて尊いです(´；ω；｀)最初から一気に読みました！これからも更新頑張ってください！！ (2019年4月28日 23時) (レス) id: ad533fb363 (このIDを非表示/違反報告)
狩間篤花(プロフ) - 蓬莱山 輝夜＊さん» コメントありがとうございます。私も新シリーズを見てヒロト君に惹かれてしまった者です( ´-｀)更新頑張ります。 (2019年3月28日 11時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：狩間篤花 | 作成日時：2019年3月16日 6時
