ソードアート・オンライン【桐ヶ谷和人】 (ページ8)

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▼細険使いページ8

───信じられないくらいに、頬にあたる風は穏やかだった。

風に流され、空の雲がゆっくりと泳ぐ。

時折聞こえる草木のざわめきと、夏を感じさせる優しい水のせせらぎ。

目を閉じただけで、この世界全てを把握できたように思えた。

現実世界は、彼女に会える分嫌いではないが、こちらの仮想世界の方が自分には性にあっていると考えている。

こうして芝生の上で寝転ぶことも、仮想世界では違和感はないように見える。

日々過ぎてゆく時間を、仲間達と過ごし、絆を築くのが、今の自分にとっては幸せな時間なのだ。

もちろんダンジョンを攻略するのも、一つの楽しみだが、今は、心のゆくまま昼寝を──

「……リトくん、ちょっとキリトくん！」
「うわぁっ」

声がして、ふと目を開けそちらを見ると、少し怒った顔が、こちらを覗いていた。

「そんなに驚くことないじゃない！というかキリトくん、ちゃんと私の話聞いてた？」

腕を組み、片目を瞑(つむ)って問い詰める彼女は、『アスナ』。
SAOの中で出会った細険(レイピア)使いの剣士だ。
指を折る程度の回数だが、現実世界でも何度か会っている。
現在彼女は、俺のパートナーとして共に行動している。

そして今、俺はその彼女に説教されている。
どうやらアスナの話を聞いている最中、うっかり寝てしまったらしい。
当然寝ているので話の内容は全く分からない。素直に認めることにした。

「……すみません、聞いてませんでした」

あはは…とごまかしの表情を混ぜて言ったのだが、むこうには効果が無かった。

「もー、キリトくんのお馬鹿」

フン、と顔を逸らすアスナ。どうやら本気で怒っているようだ。

「あぁ！すみません、本当。反省しますから！…だから、もう一度話して下さりはしませんか……？」

頭を深々と下げて土下座する俺。
彼女には今まで何度頭を下げたことだろう。
このことだけは、指を折ろうとも数えることは不可能だろう。

「………もう、しょうがないなぁー…
じゃあ、最初から話すよ」

強い風が吹き、アスナの栗色の髪が揺れる。
頬ずりしたくなるほどの艶やかさと極上のシャンプーの匂いは格別だ、
……ということを考えていることは、アスナには内緒だ。

・・・