燻り・２ ページ33
「くられ先生、ご無沙汰してます。」
りりかに続いてAも挨拶する。
「一応8個くらい侵入者対策でいいのを思いついたのでお話ししたいところなんですが、ちょっとAさんに報告がありましてですね。」
「私？はい、なんでしょう。」
科捜研所属のくられ先生は、「ここじゃちょっとなんなので」とAを手近な空き部屋に連れて行く。
「Aさんが投薬された薬の成分の解析結果が出たのですが、小瓶で持ち帰って頂いたもの、あとワインに混入されたものに関しては催淫剤の疑いで調べましたが、科捜研では抗ヒスタミン薬だと断定しました。」
「抗ヒスタミン薬？」
「酔い止めやアレルギーの薬です。中枢神経に働くもので、今回はアルコールも摂取してしまっていましたが、性的な感度を上げるのではなくただ頭がぼおっとしてしまう感じですね。」
「…つまり、どういうことですか？」
「いやあ私はただ結果を伝えにきただけですんで。」
「…わかりました、ありがとうございます。それでは。」
Aはにこりと微笑みくられ先生に頭を下げて部屋を出た。
そんなはずがない。私はあのとき、ワインを飲んだあとにグルッペンに対して劣情を抱いたはずだ。身体はグルッペンの声や目や吐息に反応し、涙がこぼれるほどの快楽に支配されていた。
それが、薬のせいじゃない？だとしたらどうして。
一課の自分のデスクに戻り、しばらくAは頭を抱えていた。
あの夜のグルッペンを思い出すと、悔しさや憎しみよりも切なく求めるようなきもちが胸を満たす。
殺人犯にそんな感情を抱くなんてあってはならない。正しくない、誰も喜ばない、刑事でいられない、ここにいられなくなる。
そうするとAの頭の中がスッと停止し、ゆっくりと瞬きをすれば心は落ち着きを取り戻していた。
何を馬鹿なことを、ワイン以外でもいくらでも薬を盛ることはできたはずだ。
PCを立ち上げ、報告書類に没頭する。
Aは今日コネシマの自宅に泊まりにいく予定である。新しい衣類や生活用品は経費で落とさせる算段だが、それに加えて依然として反省モードのコネシマが荷物持ちを買って出た。
コネシマの私的な領域へ踏み込む好奇心で頭の中を塗り替えると、立ち上がって武藤に声をかけた。
「ああ今日はそうだったね、コネシマくんによろしく。」
周りの刑事から壮絶な視線を向けられるのを感じてAは苦笑いするが、約束の時間に遅れまいと彼らに微笑みかけながら一課を後にした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：サハラ | 作成日時：2022年1月6日 12時
