悪の形・５ ページ27
部屋のドアが開く大きな音が響いた。
チラリとそちらを一瞥したグルッペンが落ちていたバスローブをAに投げて被せ身体を隠す。
肌にやわらかなバスローブが触れた瞬間に、Aの視界に飛び込んできたのは息を切らしたコネシマだった。
すでにボロボロのコネシマは拳銃を構え立つが、グルッペン越しに奥のベッドに横たわるAを確認し大きく舌打ちをする。
「グルッペンだな、手ェ挙げろ。そっから少しでも動いたら撃つ。大人しくそこの女解放しろ。」
コネシマの声は緊張感に満ち、張り詰めていた。
Aはかろうじて動く首を少しだけ持ち上げ自分の無事を伝えるために目を合わせる。
コネシマはそれを確認して少し安堵したように表情をやわらげた。
「コネシマさん、銃を所持してます。気をつけ、て。」
力のない声でAがそう告げると、コネシマはグルッペンを睨みつけたまま短く「ああ」と返される。
グルッペンはなお余裕を感じさせながら冗談っぽく両手を上に挙げた。
「なんだ、鶏かと思ったが犬だったか。お勤めご苦労。悪いがこれから私はAを連れてこの船を出る予定なんで、ここはお引き取り願いたい。」
「おいふざけてんのか。わかっとるやろ、この船には何人も刑事が潜入しとる。そう簡単には逃げられねえよ。」
「そうか、それは賑やかだ。それはそうと背後がガラ空きのようだぞ。」
その言葉を言い終わるかどうかのタイミングでAの死角から男が現れ、コネシマの後頭部を消火器で殴りつけた。
「コネシマさん！」
「クッソ…」
鈍い音とともにコネシマが崩れ落ち、背後に立つ男の姿が浮かび上がる。黒髪のメガネの男は息も荒く脇腹を庇っているように見える。
「グルッペン、その刑事バケモンやで。さっきやり合ったがどんだけ殴っても全然倒れん。なんやねんこいつ。」
「知らん。外の状況は？」
「今フロアにおるんはこいつひとりや。たぶんおまえらがよろしくやってるのを盗聴しとって突入したんやろ。でも取り囲まれるのも時間の問題や。さっさととんずらこくで。」
「わかったがトン氏、Aを連れて行くから時間稼いでくれ。」
トン氏と呼ばれた男、トントンは切れた唇から血を流しながらグルッペンを睨みつける。
「アホいうな無理じゃい！おまえひとりのお守りで精一杯じゃ！そんなにその女気に入ったんなら二人でここで死ね！」
トントンは大声をあげた後コネシマから拳銃を奪い取ろうと屈む。そこへぴくりと動いたコネシマの肘が入った。
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作者名：サハラ | 作成日時：2022年1月6日 12時
