【銀魂】私の小さな世界事情【高杉晋助】

奥さんの役目事情 ページ7

.





かくりと右膝から下の感覚が無くなる。
痛みは無い。

無い、けれども。

ああ、もう走れない。

「A！」

いきなりしゃがみ込んだ私に神威が怒鳴る。
でも、怒鳴られてどうにかなるものじゃないの。


………………あああ。いやだぁ。
折角、ようやっと幸せになれたのに。


撃ったのは、まごうこと無い。
茜。

そこまでするのか。あんたは。
私の夢を、幸せを。


「……神威、先に行け。」

「何言ってんだよ！早く立って……」

「弾が脚を貫通してる……もう走れないんだ」


神威の目が悔しそうに歪む。
存外、仲間思いらしい。
それとも私も彼にとっての殺したい生き物にカウントされていたのだろうか？

何にせよ、嬉しい。

「神威。晋助さんを頼んだよ」

十何の気配がこちらに向かってくる。
銃声を聞きつけた真選組だろう。


「さ、はやく。いい子だからね」


幼い子をあやす様に言えば、ようやくくるりと向きを変え走り出した。

サーモンピンクの髪が遠く離れてゆく。

(晋助さん……私は)

最後の役目を果たします。

左足に力を込め、立ち上がる。

振り返れば眼光鋭く睨みつけてくる茜。
手には銃が握られているものの、一発目以降一回も売ってこない所を見ると弾切れだろう。
まだろくに立てもしない癖に。
無闇に撃つからだ。
よぉく狙って心臓を撃つべきだったのに。



唇を歪めた。

最早走る事は叶わぬ。
でも。

刀は握れる。
戦える。
殺せる。

私の最後の役目。






命をかけた足止めだ。

奥さんと大立ち回りの事情→←奥さんと交差点の事情

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す