徒然なるままに銀さんの七夕事情 ページ33
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「……今年は、会えなかったんだな」
銀色の男は空を見てポツリと呟いた。
外に立てかけておいた笹の葉は雨に濡れ、短冊はぐしゃぐしゃ。
濡れるのも構わず、しゃがみ込んで。
雨に負けて落ちた短冊を一つ拾う。
七夕なんて迷信だ。
俺は叶った試しが無い。
そもそもなんで織姫と彦星がようやっと逢えて、
さぁイチャイチャしようかって日に願い事を叶えさせなきゃなんないのかねぇ。
1年に一回だぜ?
恋人にとっちゃあ十年くらいに感じるだろうよ。
そんな日なんだからゆっくり恋人と過ごさせてやってもバチは当たるめぇ。
「まぁ、今年は逢えなかった見てぇだけど」
来年に期待、という事で。
「なぁ、彦星サン…織姫サンでもいいんだけどよ。
もう今年は逢えねぇんだろ?だったら願いの一つくらい、叶えてくれよ……」
元々そこまで綺麗じゃない字が更に歪み、インクは滲んで。
最早書いた本人でさえも解読に時間がかかりそうな短冊。
「……そーいや、お前は願掛けとかしないもんな」
松下村塾で松陽が笹を準備してくれた時も書いていなかった。
「自分の願いくらい自分で叶える」
「いーねぇ。ボンボンは願いを叶える時間があるほど暇で」
「んだと!やんのか?」
「上等だ!」
記憶はどこまでも殴り合いに繋がる。
そして、懐かしの鉄拳制裁。
あれは痛かった。
短冊を抱きしめる。
叶わないって、知っていた。
でも願わずには居られない。
「叶えてくれよ…そんな大層な願いじゃねえんだ」
「あんた、何やってるんスか」
そこには、卑猥な名前の女と。
いつかの昔に隣を歩いた。
ああ、どうやら七夕っつーのは迷信じゃねぇらしい。
謝るよ。織姫サンと彦星サン。
.
「いや、誰が卑猥な名前スか!殺すぞ白夜叉ぁ!」
PS.あの話から今日で四十一日目。
いつか、また三人で笑い合える日を信じて。
(2019/07/07 18:43:01)
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紫姫(プロフ) - 最後すごく感動しました!!泣いちゃいました (2021年4月4日 13時) (レス) id: c6ba8ff617 (このIDを非表示/違反報告)
あると(プロフ) - 作者名に気付いて驚きました。いくつか読んだことのある作品の作者さんの過去作だとは思わず、何も知らず新鮮な気持ちで一気に読み終えました。まさに今この時期だからこそ、高杉晋助という男が染みました。良い作品でした。素敵な時間をありがとうございました。 (2021年3月18日 15時) (レス) id: ac43156437 (このIDを非表示/違反報告)
りなりー - この作品のモノローグがすごく好きで、キャラクターも好きで最後は、物凄く泣きました。この作品も、作者さんも愛することが出来ました。感情が消えかかっていた私を泣かせてくれて、この物語に出会わせてくれて、本当にありがとうございました。 (2020年3月15日 21時) (レス) id: 45e0f85ae1 (このIDを非表示/違反報告)
chokone_0519(プロフ) - ここまで一気に見させてもらいました。最後の最後でボロ泣きして、ほんとにいいお話だったと思います。これこらも頑張ってください! (2019年12月19日 21時) (レス) id: c032273e58 (このIDを非表示/違反報告)
両足に傷(プロフ) - 完結おめでとうございます!自分の中ではかなりないた部類なのでこれからもまた繰り返して読むと思いますが...w素晴らしいお話でした! (2019年8月16日 2時) (レス) id: 910dd88300 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沖田レイア | 作成日時:2019年6月16日 18時