【鬼滅の刃】幸せ者の胃は崩壊寸前

宵二十 ページ20

「起きた……」

カナヲが言う。


「あら、起きたわ……」

カナエも言う。



「おいテメェ、匡近は、粂野匡近はどこだァ？」

起きてから己ではなく友人を想う一言。彼にとって、粂野 匡近という人間は大きい存在だったのだろう。


「粂野さんは……」

「死んだってのかァ？あァ！？」

まだ傷は治りきっていないのに、怒鳴り散らして立ち上がろうとする。それをカナエが許すはずもなく。


「まだ安静にしていないと、傷口が開きます」

「ンなことどうでもいいだろォ！」

「よくありません。あなたは少なくとも、三人に命を助けて貰ったのです。その体も、命も、どうでもいいわけがありません」


ピシャリと言い放つカナエ。


「ひとりは粂野匡近さん。ひとりはあなたの治療をした胡蝶しのぶ。もうひとりは、瀕死の貴方を連れ出した禓黒A。三人のうち一人でも欠けていれば、貴方は助かっていませんでしたよ」


事実を伝えただけである。カナエは、何ら変わったことは言っていない。


「貴方は、受けた恩を仇で返すつもりですか」

「ッ……」


言葉に詰まる不死川。


「……カナヲ、行くわよ」



あの優しき胡蝶カナエは、怒っていた。


ねえ、Aちゃん。

あなたはいつも、私の事を優しいと言ってくれていたけど、全然そんなことないのよ？

今だって貴方のことや、しのぶのことを悪く言われた気がして怒ったの。彼には、大切な人を失ったばかりの彼には、悪いことをしたと思ってるわ。

けれど、後悔はしていないの。


最初は憎くて憎くて仕方なかった鬼にでさえ、今は情をかけるようになったのだって、Aちゃんの影響だと思うわ。

辛い過去を持っている貴方が、私と違って何故そんなにも笑っていられるのか。今は違うけれど、きっと貴方の心は変わっていないのでしょうね。



だって貴方は、鬼狩りに向かないほど、優しすぎるもの。

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