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ワンワンと鼓膜内で渦巻くみたいに鳴り響く蝉の声が暑さを増長させている気がする。
パート練や個人練以外は完全防音完備の音楽室に篭っているから気付かないが、外に出ると一気に籠るようなじんわりした暑さに見舞われていた。
「えっと……何かあった、ん、すか」
「?なにもないですよ。水買いにきただけ」
「いやそれやなくて。なんか、顔色悪ない?」
「え?……あー、そうかな?体調は全然何ともないんだけど」
ここまで言われると逆になにかあるのかもしれないと思い始めた。
自覚症状が全くないだけに、むしろそれが嫌に不気味に思う。私の身体でいったい何が起きているというのだろう。
「うーん、まあ、無理せんようにな」
「ありがとう。宮くんも熱中症とか気をつけてね」
洗った後にタオルで拭いた顔の皮膚に残っていたわずかな水分も、直射日光の下で完全に乾ききっている。
おそらくここが会話の終わり時だろうと思い、ポケットにタオルを入れて小銭入を取り出し、自販機に足を向けた。
……が、何を思ったのか、体育館から顔を覗かせていた宮くんは内履のまま中庭に足を踏み入れ、こっちに向かってきている。
「それ、なんかバレーの専用の靴とかじゃないの?私よくわかんないけど、外出て大丈夫?」
「ん、まあええやろ」
「いいのかぁ」
できる限り日陰の下を歩きつつ、自販機に辿り着く。確か昨日の夕方くらいに業者の方がガコガコしていたので売切の赤いランプが点いているものは一つもない。百円を投入し、私の指は迷いなく水のボタンを押しこんだ。
「そういえばクラスの集まりのやつ、もう返事した?」
「うん、したよ。宮くんしてないの?」
「してへん。昨日から穂積が返事急かしてきよるんよ。出るん?」
「うん。講習会終わってから合流する」
例のクラスの集まりの計画はもう来週末に迫っていた。言い出しっぺ故に運営的役割を担うほづみんがあれこれセッティングしてくれているみたいだ。
当日は講習会が入っているのでやや遅れての参加になるが、他校ではなくうちの開催なので移動時間はなく、片付けすればそのまま解散になるのがせめてもの救いだ。
「……ほなら俺も出よ」
「……へ、」
弾かれるように顔を上げると、覗き込むみたいに少しだけ腰を屈めている宮くんと目が合った。
いつかのDMのやりとりを思い出し、思わず呆けてしまった。
宮くんは目を逸らさない。ジッと試すような視線でしばらく私を見ていた。
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エコ - かなけんさん» 感想ありがとうございます。メチャクチャに嬉しいのですが、この感動を言葉に表すに足る語彙力がないので、うまく伝えられなくて申し訳ないですが、本当に本当に嬉しいです。スクショしてにやにやするぐらいです。遅筆ではありますが、これからもよろしくお願いします。 (2022年3月28日 23時) (レス) id: 3464e68ae3 (このIDを非表示/違反報告)
かなけん(プロフ) - めっちゃ好きです!!毎回更新されるの楽しみすぎます!!💞 (2022年3月27日 22時) (レス) @page19 id: 4ee55b59ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エコ | 作成日時:2022年3月13日 23時