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汗と制汗剤のまざったにおいが凝縮され、色濃く鼻腔を刺激する夏の電車内は、地獄の様相を呈している。僅かに腹の底にくすぶる嫌な気分を濁すようにスマホのロックを開いた。
……彼氏。彼氏、ね。
昼休みの和の言葉を反芻し、夏の景色の中、誰かと一緒に歩く自分を想像した。
まあ、そりゃ欲しいとも。
歳頃ですもの、友だちと肩を並べて笑い合っているのだってすごく楽しいけど、カップルを見れば羨ましい。普通に。
一緒に夏祭り行ったり？プールとか海とか？アウトレットとか……普通にカラオケとか、ボウリングとか？楽しくないわけがない。好きな人となら。
おおよそ十年半ば生きているわけだ、過去を振り返って浮ついていた頃がまったくないわけじゃない。指折り数えても片手で足りてしまうけれど、中学の頃は隣のクラスで人気の爽やかな男の子、同じ委員会のかっこいい先輩、部活は違うけど一緒に帰る仲のいい男の子、そんな認識をひっくり返して彼らは私にとって好きな人や彼氏になった。部活の合間を縫って会ったり、休日を潰して遊んだり。
しかし、どうだろう。思い返すと高校に入学しての一年とちょっと、真っ当にときめいた記憶がない。部活でそれどころじゃなかったからか、私が熱を忘れてしまったからか。
「……」
臆病になったと思う。すごく。
人間関係の悩みは生きていく以上、一生涯続くのだろうことは想像つくのだけど、一度躓いた人間はどう立ち直るのだろう。地面に這いつくばって、当然のように歩を進める人々をみじめに見上げて、匍匐前進みたいにして足を庇って慎重に慎重に。私は、そんな人間なんだと思う。七転び八起きとかよく言うけど、私は一度転んで起きない人間だ。人と関わるって、本当に難しい。
インスタのDMで昨日ほづみんから届いていた、クラスの集まり催促に、出るよ、と絵文字つきで返す。このたった数文字だって、ままならないのに。
泣きそうな気持ちだった。最寄りの駅へ到着したアナウンスを聞きながら、肩を持ち上げて左の袖口で涙目になったのを拭う。
一人になったとき、新しい人間関係を築くとき、日常生活で気付かぬうちに忘れてしまう自分の異端さとそうなりえた所以の傷を思い出したとき。
溺れてるときみたいにもがいて、疲れて。
そして、きっといつかもがくのもやめて、溺れてしまうんだと。
私はずっと、そう思っている。
今たまたまもがけているだけで、体力が尽きて、心が擦り減って、終わりが来る。
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エコ - かなけんさん» 感想ありがとうございます。メチャクチャに嬉しいのですが、この感動を言葉に表すに足る語彙力がないので、うまく伝えられなくて申し訳ないですが、本当に本当に嬉しいです。スクショしてにやにやするぐらいです。遅筆ではありますが、これからもよろしくお願いします。 (2022年3月28日 23時) (
レス) id: 3464e68ae3 (このIDを非表示/違反報告)
かなけん(プロフ) - めっちゃ好きです！！毎回更新されるの楽しみすぎます！！💞 (2022年3月27日 22時) (レス) @page19 id: 4ee55b59ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エコ | 作成日時：2022年3月13日 23時
