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HR。いつもはどこかのタイミングで家族の惚気を何かしら挟む担任だが、今日はやけに早口に用件を済ませていく。
その理由は明確だ。
彼の手にはあからさまな半透明のビニール袋が握られており、うっすらと折り畳まれた紙が透けている。
なんかもうすごくあからさまに席替え。わかりやすいにも程がある。
「……で、連絡は以上!
あとはみんなもうわかっとると思うけど席替え始めるぞ!」
空気を入れ続けていた風船が限界を迎えて弾けるように、沈黙を守っていたクラス中が溢れんばかりにワッと盛り上がった。
いつものHRの話を聞きながらみんなソワソワしてたんだろうな。もちろん、私も含めて。
担任が付け加えるみたいに、「そろそろみんなの顔と名前が一致したころやと思う」とか「身長と視力で黒板が見えないときは席を交換して、それ以外は禁止」とか「進級一ヶ月弱でもう机の中が汚いやつを考慮して席ごと移動」とか色々言っているが、もうみんな聞いていない。
「じゃあ名簿順に引け〜」
担任の指示に対して名簿後半組が綺麗にハモって「えーっ」と抗議の声をあげる。隣の席の宮田さん通称宮ちゃんは、その大人しい性格故に苦笑いがちになった。
「楽しみだね」
「いやぁ、でもわたしたち残り物やろ」
「宮ちゃんなら福あるよ」
「……Aちゃんのその謎の自信、なんか心強いわ」
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廊下側、後ろから二番目。
なんだか喜びづらい結果となったが、とにかく無事席替え(と微調整)が終わった。
今が冬だったら廊下からの隙間風で最悪の席ではあるが、これから迎える夏は窓側は直射日光になり、加えて位置によっては冷房が直撃するのだ。
つまり絶妙に良く、絶妙に嫌な席ということになる。
ちなみに和はド真ん中のド最前を引き当てた。綺麗なフラグ回収である。哀れなり。
ともかく高校生活の数少ないワクワクドキドキイベントをひとつ乗り越えたわけだ。私は一限の教科書を引っ張り出しながら、隣の席の男子に話しかけた。
「川村くん、隣よろしく」
「おー、よろしく。文月さん近いと安心感あるな」
「何の安心感?」
「俺寝るから」
「もしかして私目覚まし時計だと思われてるのかな」
「文月さんいつも起きとるもんな」
「い、嫌だぁ」
川村くんとは去年別クラスだったため割と未知の存在ではあるが、普通に友だちになれそうだ。あはは、と爽やかに笑う彼の姿は、正直好印象である。
まあ、うん。……うん。
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エコ - かなけんさん» 感想ありがとうございます。メチャクチャに嬉しいのですが、この感動を言葉に表すに足る語彙力がないので、うまく伝えられなくて申し訳ないですが、本当に本当に嬉しいです。スクショしてにやにやするぐらいです。遅筆ではありますが、これからもよろしくお願いします。 (2022年3月28日 23時) (レス) id: 3464e68ae3 (このIDを非表示/違反報告)
かなけん(プロフ) - めっちゃ好きです!!毎回更新されるの楽しみすぎます!!💞 (2022年3月27日 22時) (レス) @page19 id: 4ee55b59ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エコ | 作成日時:2022年3月13日 23時