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そう、大事に。大事に育ててくれた。
裏の世界のことも、黒の組織との繋がりも、活動の全容も、西条のことも知ることができたのだから。まずはあなたが居なかったら掴めなかった。
かちゃりとトリガーに指をかける。ちょっと力を込めれば勢いよく放たれる弾丸。きっと血飛沫は凄まじい。
「マスターのこと、本気で尊敬してるんです。一緒にお仕事したいんです。貴方は？」
恐怖の中に、僅かに優越が見えた。ほんと、単純なマスター。
「！したい！俺も春樹くんと仕事がしたいよ！楽しかったし、ワクワクしたし！」
そりゃそうだ。俺がどんだけ売り上げに貢献したと思ってる。
潜入当初は客なんて片手で数えるほどだった。でも、それを大盛況まで持っていったのは俺だ。
「じゃあ答えはひとつですね。僕のこと、また大切に育ててくれますか？」
「も、もちろん！君の手柄は報告しよう！」
「やったあ。さすがマスターですね。もっと尊敬しちゃいました」
頬を赤らめた僕に気を良くしたのか恐怖が無くなった様子。
マスター。君はこれから僕が大事に持つ駒だ。
「マスター。ありがとう」
すぐにスタンガンで眠らせた。
俵のように担いで、廃工場の外へと向かう。
途中でスマホが着信を告げた。公安の部下からだった。どうやら身柄が拘束できたらしい。
「…ああ、こっちは終わったよ。身柄を送っといてくれたらあとは僕がするからね。ゆっくり休むといい」
外へ出れば、黒いポルシェが一台停まっていた。
さっさとトランクに気絶させた身体を放り込んで助手席へ乗り込む。
「ご協力感謝します、ジン」
「やっぱり面白いやつだな、お前」
髪から滴って頬を濡らした雨水を、ジンは優しく拭ってくれた。
「死体、譲ってくれてありがとうございました」
「フン。焼いたのは俺じゃねえよ」
「じゃあ誰です」
「バーボンさ」
「…ああ、あの端正な男性」
バーボンが、この死体たちを...
きっと疑いながらも焼いてくれたんだろう。少し彼には悪いことをさせたな。
「今日は泊まってくでしょ？」
「ああ。シャンプーは切れてないだろうな」
「げっ。なんで僕が使ってるって…あ、」
ジンは乗り出して俺の頭の近くでスンと匂いを嗅いだ。
そうだ、匂いか。ジンの使うシャンプーは特別いい匂いがする。
「…確かきれてないですよ。行きましょう」
「ふっ」
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作者名：セメント紅井 | 作成日時：2023年6月3日 17時
