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ジンは朝から出かけている。
俺はジンの置いていった本をベッドの上で読みながらしっかり療養していた。
意外にも恋愛小説を読んでいたようだ。これは俺も読んだことあるから少し親近感が湧いた。
しばらく読んでいると、玄関の方でガチャっと扉が開いたのが聞こえた。スマホは丁度12時を表示していた。
ジンが帰ってきたのか。
そう思ったが足音がどことなく軽い。女？しかも2人？
「My Boi！！！」
「ぐえっ」
答えに行き着くよりも先に身体を抱きしめられた。
「べ、ベルモット？」
「ああもう何してるのよ！2日も寝込んで！」
なんで知ってるの？てか後ろキールいるじゃん。
俺もう暫く会わないって思ってたんだけど。
「キールが言ったんですか」
「報告書を偶然見られちゃって問い詰められたのよ。まさかベルモットとも関係があるなんて思わないもの」
ちゃんと報告書作ってるんだ。意外にも報連相は徹底してるようだ。
「…ハル。私に言わなかったのはどうして？貴方は私を助けてくれたのよ。貴方を助けたいと思うのは当然だわ」
ベルモットは俺を抱きしめたまま問うてきた。
不安そうに声が震えている。
いつもは強い女って感じなのに、今はどことなく弱く見える。腕を回して抱きしめた背中はやっぱり小さい。
「貴方に心配をかけたくなかったんです。それに来週会う約束してたでしょ？いつも通り元気な姿を見せたかったんですよ」
あやすように背中を撫でた。
ベルモットはゆっくりと身体を離して僕と目を合わせた。
「バカね。私を頼ることを今その優秀な脳みそに叩き込みなさい」
優しさの混じった棘のある言い方だ。
その言葉をかけられた俺の心境は複雑だった。ジンも、ベルモットも僕を大切に扱ってくれる。言葉の裏には確かに優しさがあるのだ。
その優しさに気づく度に、自分が桧山春樹という嘘つきなことを突きつけられる。
もしその優しさを俺にもくれたら。今更思ったって、もうどうもならない事だが。
秀一と零。この2人が俺を欲張りにさせたのかもしれない。今だけはこの2人を恨んだ。
「あなた、」
「なんですかキール」
「…いえ、なんでもないわ。私も貴方に興味があるの。連絡先交換しても？」
「いいですよ。スマホ貸してください」
キールは僕を警戒している。次に会うときは俺で会いたいものだ。
そしてできれば、僕じゃなくて俺へ視線を向けて欲しい。なんてバカみたいな願いを込めて電話番号を入力した。
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作者名：セメント紅井 | 作成日時：2023年6月3日 17時
