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零の件から暫く。
俺はいつも通りLugでの潜入捜査に専念していた。
「春樹くんこれもお願いできる!?」
「はーい!」
相変わらずお店は繁盛している。
帝丹高校の子達がよく来るようになったお陰か、店の情報が拡散された。それでか今度雑誌に掲載されることになったようだ。
マスターはかなり喜んでいた様子だし、まあ俺も喜んだ。
「お待たせしました。カルボナーラです」
「あの!写真撮ってもいいですか!?」
「あはは。恥ずかしいからやめてください」
それと同時に俺の写真もよくSNSにあげられているようだった。隠し撮りであろう写真だが、それを見て俺目当てで来る人も増えている。
「モテてるね、春樹くん」
「僕はモテるために働いてるわけじゃないんですよ?」
「ごめんごめん」
お客さんとは裏腹に、忙しそうに料理を作るマスターはやっぱりいつも通りだ。
変わったことは、強いて言えば先日の一件からマスターは俺にいっそう懐いたぐらい。俺を疑おうとは思っていないらしい。
なんだか好都合すぎて不安になってくる。
幹部になるほどの実力なのに、こんなにアッサリポンコツなのには少々納得がいかない部分があるのだ。
今見ているマスターが本物なら良いのだが、嘘だった時の場合も考えて一層気を引き締めなければ。
最後の客が帰ったのを見届けて、ボードを屋内へ仕舞う。
「マスター!ランチタイム終わりましたよ。お疲れ様です」
「だあーー!終わったーっ!」
拭いた机に突っ伏して動かなくなったマスター。
俺は食器を洗うのに取り掛かった。
食器を置く音、水が流れる音。それ以外は聞こえない静寂。
「…ねえ、春樹くん」
「はあい?」
「獺祭」
「!?」
そんな静寂を破るように、マスターがそっと告げた。
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作者名:セメント紅井 | 作成日時:2023年6月3日 17時