【ヒプマイ】親友 a.k.a 恋人

三郎から癒やしを9個 ページ10

それって、どういうことですか……とは、聞けなかった。



聞いてはいけないことだということが、雰囲気で分かったから。



不穏な空気の中で、何を話せば良いのか分からなくなってしまった僕は



黙って背中を差し出したその人に従うしかなかった。





三「あの、重くないですか……？」




『いや、むしろ軽いな……ちゃんと食ってるのか？』




三「………食べてますよ、野菜は…嫌いですけれど。」




『そうか…そういえば、一郎も椎茸だけは苦手だったなぁ……。』





……ゆらゆらと、歩くたびに揺れるこの感覚が懐かしい。



でも…いち兄にしかおぶってもらったことはなかったから




少し、新鮮だった。




三「あ、そこを……。」



『右、だろ？
………知ってるよ、何回地図を送りつけられたことか……。』



あぁ……ますます、この人といち兄との関係が気になって仕方がない。



知りたい、早く家に帰りたい……早く、着いて……。



という思いと同じくらいに。



家に、着きたくない。



このままずっとおぶられていたい。



でも、気になる…けど……このまま………。



『おい、もうすぐ着くぞ。
　 降りなくて良いのか？』



三「え、あぁ！……はい。」



気遣ってくれたのかな？


いち兄や二郎に、情けない姿を見せないように……？




彼は、家の前まで来ると



僕をゆっくりと、地面におろしてくれた。



さっきよりも痛みは引いていて、立って歩くくらいなら不自由なく出来そうだ。




そして、玄関の方まで歩いてから振り返ると



彼は手をひらひらと振って



『じゃ、俺は帰るから……くれぐれも、一郎にはよろしくしないで……。』



一「三郎っっっっっっっっ！！！！！！！」



三「うわぁっ！？……い、いち兄？？」



びっくりした……。



玄関前に立つやいなや、いきなり扉が開いて



いち兄が飛び出してきた。



そして、苦しいくらいに僕を抱きしめた。



いち兄に抱きしめてもらえるなんて……嬉しい………。



じゃ、なかった！



え、これじゃさっきの人といち兄が鉢合わせて……。




一「………っ！？」



いち兄の、息を呑むような声が聞こえて



ゆっくりと、僕に回していた腕が落ちていった。



いち兄が硬直して動かないまま



しばらく沈黙が続いた。




何十秒かしてから、震えた声で



僕の知らない、あの人の名前を口にした。




一「……怜、さん？」

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