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chapter.27 ぼうそう ページ29

『1208番』


その番号は彼女………フィナの口から度々現れる言葉だった。その実験体番号を口にした瞬間、彼女の白い頬が微かに色づいたのがとても印象的だった。



「物静かな男の子」


「彼の書く文はとても繊細」


「意外に部屋の片付けが下手」


「口が悪い」



「でも、頼りになる」


彼女は彼のちょっとした悪口をポツポツと呟きながらも、いつも最後には彼の事を褒めていた。私には分からなかった。



嫌いなら、なんで褒めるの?


好きなら、なんで文句を言うの?



明らかに矛盾しているな、と感じた。
でもやっぱり、彼女は彼の事が好きみたいだった。


彼女は……、幸せそうだったからだ。


尚更分からなかった。どうして、そんな幸せそうな顔が出来るの?


幸せって、一体なんなの?


どうせ………どうせ、すぐに幸せなんて消えちゃうのに。



フィナの部屋へ走りながら、ふとそんな事が頭をぐるぐると駆け巡った。パタパタと自分の足音が硬い地面を反射して響く。その足音を気にする人はいなかった。人の流れに逆らうように、間を通り抜けていく。


だんだん、自分の足が速くなった。


息も荒くなってきた気がする。



『フィナ…、!』


その時だった。


「A……ッ!」


後ろから、聞き慣れた声がした。ハッと息を呑んで振り返ると、少し髪を乱したフィナが此方へ走ってきた。近付くや否や飛び掛かるように私を抱きしめる。


フィ「良かった……!無事だったんだね…!!」


『………うん、大丈夫。フィナは?』


フィ「あたしは大丈夫。だけど………」


彼女が私の体に回した腕の力を少し強める。……そして少しの間が空き、彼女は意を決したように体を離した。


フィ「A、落ち着いて聞いてくれる?今………1208番くんが暴走状態にあって、研究所が混乱状態になってるの」


暴走状態。
名前だけ聞いてみたら大変な状態のように思えてくるが、この研究所では珍しい事ではない。実験体が暴走状態に陥ることは少なくない。私は……まだないけれど。


自分の両肩を掴む彼女の手は微かに震えていた。


フィ「心配………だけど、あたしたちはこの混乱に乗じて逃げるしかない」


彼女はぐっ、と下唇を噛んだ。心無しか、彼女の瞳にうっすらと涙が張っている気がする。


フィ「………いくよ、」


彼女の言葉にこくり、とひとつ頷いて、彼女の手に導かれるまま足を進めた。



その時だった。

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作品ジャンル:恋愛
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人間 - 好きです()神 (3月26日 22時) (レス) @page45 id: 89c49f19f9 (このIDを非表示/違反報告)
ちょい。〜最近kpopはまり中〜 - 更新ありがとうございます、、!(泣) (1月14日 12時) (レス) @page37 id: de8cd53295 (このIDを非表示/違反報告)
ちょい。〜最近kpopはまり中〜 - やっぱり好きです!他の作品も神だし、、!夢主のキャラ被りがなくて尊敬します!更新無理ない程度に頑張ってください。1カ月でも1年でもずっと待ってます! (1月10日 10時) (レス) id: de8cd53295 (このIDを非表示/違反報告)
桜音羽 - 何これ、神作じゃないですか!? いのりさんは神様です! 国宝になるべき!! (8月5日 23時) (レス) @page31 id: 9667935504 (このIDを非表示/違反報告)
みなもち(プロフ) - 久しぶりの投稿ありがとうございます!!!いつも1話なのに今回は4話も…!本当にいのり様の作品大好きなので投稿されると本当に嬉しいです✨今回のお話も少し胸に来るものがありました!素敵な作品ありがとうございます😊 (6月25日 0時) (レス) @page31 id: 422edee945 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:神崎いのり | 作成日時:2022年4月4日 9時

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