chapter.14 ボウケン ページ16
物心ついた頃から、私は日の当たらない地下研究所で生活していた。コンが持ってきてくれた本とか、他の人たちが教えてくれた外の世界の話だとか、断片的にちりばめられた情報をかき集め、くっつけて、自分の想像で補う。そんなことを繰り返すうち、いつしか外の世界というものは私の中の憧れとなっていた。
『…ッ』
例えば嬉しい時、人ははしゃいだり素直に喜んだりする。感情表現が苦手な自分は、素直に行動に表すことはできないけど。
普段叫ぶこととか…そもそも叫ぼうと思ったことすらない。
でも…今の私は今にでもあっと叫びだしそうな口を押さえていた。体が、心が、歓喜にうち震える。
rd「えーっと……大丈夫…?」
『…っここが、ほんとに、外の、世界…?』
震えるせいで辛うじて聴こえるくらいのか細い声もらっだぁには伝わったようで、ふっと笑いをこぼされる。
rd「そうだよ。びっくりした?」
首がもげるくらいにぶんぶんと縦に振る。激しすぎだって、と笑うらっだぁの顔もこれ以上ないきらきらと輝いていた。
陰気を閉じ込めたような研究所とは真逆の青い空、視界の両端を彩る緑。爽やかな風が乱雑に切られた髪を優しく揺らした。
rd「A、行くよ」
『…うん』
らっだぁが手招きする方へ向かうと、先ほど出てきたガレージに入っていた車が用意されていた。何もかも初めてのことにどぎまぎしながら助手席に乗り込んだ。動いたかと思うと、景色が次々と前から後ろへ流れていく。山を下りてしばらくすると、街が見えてきた。
着いた場所は、大きな公園だった。
rd「ほら、遊んでおいで」
目を輝かせたまま、こくんと頷いた。履き慣れない靴で草を踏みしめる。子供たちが走り回ったり、歩いていたり。知り合いばかりの研究所でずっと生きてきた身としては、見知らぬ人がたくさんいることに少し恐怖を感じつつも、好奇心が私の足を進ませた。覚束ない足取りで駆け出し、草原に大の字で寝転ぶ。少しチクチクとした草が肌を擽った。視界いっぱいには、青空とふわふわとした雲が広がっていた。
…私の冒険が今、始まる。
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人間 - 好きです()神 (3月26日 22時) (レス) @page45 id: 89c49f19f9 (このIDを非表示/違反報告)
ちょい。〜最近kpopはまり中〜 - 更新ありがとうございます、、!(泣) (1月14日 12時) (レス) @page37 id: de8cd53295 (このIDを非表示/違反報告)
ちょい。〜最近kpopはまり中〜 - やっぱり好きです!他の作品も神だし、、!夢主のキャラ被りがなくて尊敬します!更新無理ない程度に頑張ってください。1カ月でも1年でもずっと待ってます! (1月10日 10時) (レス) id: de8cd53295 (このIDを非表示/違反報告)
桜音羽 - 何これ、神作じゃないですか!? いのりさんは神様です! 国宝になるべき!! (8月5日 23時) (レス) @page31 id: 9667935504 (このIDを非表示/違反報告)
みなもち(プロフ) - 久しぶりの投稿ありがとうございます!!!いつも1話なのに今回は4話も…!本当にいのり様の作品大好きなので投稿されると本当に嬉しいです✨今回のお話も少し胸に来るものがありました!素敵な作品ありがとうございます😊 (6月25日 0時) (レス) @page31 id: 422edee945 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神崎いのり | 作成日時:2022年4月4日 9時