1匹目 ページ1
今日は、水曜日。私の学校がいつもより早く終わる日。
私は水曜日になると決まって行く所がある。
『わぁっ!今日も可愛い〜』
私の視界を鮮やかな青が彩る。その中で泳ぐ私の大好きなイカたち。
此処は、この辺りでは人気の水族館。休日は地面が見えなくなるほど人で溢れかえるが、平日はのんびり魚を見られるくらいに少なくなる。。それに、此処にいる魚の種類は色んな水族館を巡り歩いている私でもびっくりするくらい多い。私はこの水族館の年間パスを持っているし、家からも徒歩で10分程しか離れていないから毎週のように此処を訪れる。何より勉強や部活で疲れている私を癒してくれるのがこの水族館の魚たちだ。
優雅に泳ぐイカたちの水槽に両手をつきながら、身を乗り出す。見れば見る程可愛く思えてくるイカたちに思わず顔が綻んだ。
イカたちを1時間程ぼんやりと見つめると、私はイカの水槽から離れて、水族館を歩き回る。私の他に家族連れや恋人で来ている人たちも見えたけど、別に一人で寂しいとは思わない。もう慣れっこだ。一人でのんびりと歩きながら、大好きな魚たちを見れるなんてこんなに素晴らしいことはないと最近ではそう感じてきている。
……勿論、恋人と来てみたいと思わないことはないけど。
ふわふわと漂うクラゲ、少し怖いけどそれでもいとおしいサメ、某魚映画を連想させるカクレクマノミやナンヨウハギ…
色とりどりの魚たちは、どんなに辛い現実だって一瞬で鮮やかな色に塗り替える。
さて、もう時間だ。
腕に着けた魚をモチーフにしている時計を見て溜め息を吐く。軽く憂鬱な気持ちになりながらも私は家へと足を進めた。
『ただいま〜』
家に入るなり、冷たい視線を向けられる。私は逃げるようにして自分の部屋へ入った。部屋に置いてあるイカの巨大ぬいぐるみを抱えて、ベッドにダイブ。
…私はこの家では腫れ物扱いされている。私の妹は、はっきり言って何でも出来る。成績は常に1位だし、リーダーシップもあるから先生たちにも人気だし、私の両親も溺愛している。
__それに比べて、私は何も出来ない。勉強だってどんなに頑張っても1位は取れないし、人と関わるのも苦手だから両親に出来損ないだと言われ続ける日々。
『…現れないかなぁ、私を救いだしてくれる人』
ぎゅっと抱き締めたイカのぬいぐるみに、一粒の涙が落ちる。イカのぬいぐるみは、抱きついている私には目もくれず、ただ知らん顔をしていた。
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badendingが好きすぎる人(プロフ) - ほんとに神作品やわ! 作ってくださりありがとうございます! (4月9日 23時) (レス) @page37 id: 72c8a53bfa (このIDを非表示/違反報告)
野いちご - ゑ、なんですかこの神作品は、、 おかげで目から噴水がでてくるんですけど!?いや本当にこんな神作をありがとうございます。(語彙力消失) (8月25日 21時) (レス) @page36 id: 5dce853f03 (このIDを非表示/違反報告)
Mentaiko - あー!!神作だぁああ!!助けてこのあと学校あるのに(結構すぐ)涙止まんないぃぃぃ!! (2022年10月13日 7時) (レス) @page36 id: 098621680f (このIDを非表示/違反報告)
青い紅茶(プロフ) - 甘酸っぺぇなぁ...(尊死) 「イカはいかが?」、ダジャレなのに筋通ってて個人的に超好きです...他作品の更新も頑張ってください、応援してまふ...() (2022年8月17日 14時) (レス) @page38 id: 7871dca46e (このIDを非表示/違反報告)
しろくろ - ちょっとその…あの…今一気読みしてきたんです…誰かこの涙拭いてください…ほんとに…殺しに来てますよね…???ほんとに神作をありがとうございます…今日から多分幸せに生きれます…(成仏) (2022年6月19日 18時) (レス) @page38 id: 60e18d1ca9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神崎いのり | 作成日時:2021年11月8日 20時