【イナギャラ】偽りメルシーpartⅢ (ページ18)

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第１０６話ページ18

結局私は、ブラックルームから出て自室へ向かっていた。
…自分が持ってきたもののなかで、何か思い出せるものがあるだろうと思ったからだ。

『メルシー…エギュー…？』

その名前をどこかで聞いたことがあるのに、思い出せない。

…いや、それ以前に考えるべきなのは監督が１０年前生まれだと言うことだ。
頭や髭は白いのに１０年前生まれはないだろう。

＿＿＿それとも、何かあって別のものとして成り代わったから？

どっちにせよ、わかったのが生まれだけでも良かったのだろう。もともと"彼女"に聞いたのはそのためだったのだから。

(逆に、プログラミングされた"彼女"は監督についてなにも言わなかった可能性だってあったんだ。それを思えば…)

ドンッ！

『うわっ？！』

突然背中に衝撃が走り、私は前へ押される。
寸でのところで踏みとどまり、何事かと振り替えれば、そこにはサッカーボールがあった。

さらにその奥を見やると、何処か不安気のキャプテンがいた。

ボールを拾い上げ、キャプテンのところへ行こうと駆け寄ったとき。

「…見せてよ」

「Aの、サッカーを」

突然言われた言葉に立ち尽くした私の手の中からボールを取り上げ、何処かへ走り去ってしまった。

『…私のサッカーなんて。もう、存在してない』

そんな呟きは誰にも拾われることなく静かに消えていった。