稲荷崎の問題児ちゃん2【ハイキュー】

問題児92 ページ47

何秒なのか、何分なのかはわからないがAが泣き止むまで侑は頭を撫でた。



｢…あり、がとう｣


侑｢…別に、なんもしとらん｣



お互いの間に気まづい空気が流れる。



｢あー…なんか食べる？｣



そう言い立ち上がろうとすれば、目の前がクラっとし動くのをやめた。



侑｢まだ熱あんねんから動くなや｣


｢ごめんやん｣



悪態をついていても心配してくれているのを分かっているため素直に謝った。


そんな空気にいたたまれなかったのか侑は今度こそ帰ろうと腰を上げた。


だが、侑のその行動はまたしても叶うことがない。


2度も袖を掴まれた事にびっくりしたが、掴まれた本人よりも驚いているのは掴んだ本人だ。



｢あ、え………？

なんや、これはちゃうねん……えっと…｣



Aは自分の行動に困惑する。


侑は先程よりも随分と落ち着いていた。


侑の掴んだ袖を離すことなく視線を左右に泳がせるAに侑はため息をついた。



｢あ、ごめっ………｣



そのため息によりAは反射的に掴んでいた袖を離す。



侑｢…大丈夫や｣



そう言って侑はAの頭を何度も撫でる。


それは少し乱雑に。


それのせいで侑の顔は見えないけれど、先程の繋いでいた暖かさが忘れられなくて…


頭を撫でられる心地良さを離したくなくて…


思わず、口からポロッとこぼれた。



｢いか、へんで…｣



それは先程とは違う、Aの意志を持った言葉で…


嘘でも寝言でもない、Aの侑に向けた本心で…



それを聞いた侑はドカッと床に座った。



侑｢おるで。

おったるから、はよ寝ろ｣



侑は無理やりAをベッドに寝かせ、目元に手を覆わせる。


視界が無理やり暗くなり何も見えなくなる中、確かめるように侑の袖を掴んだ。



｢ありがとぉ…

ここまで運んでくれたんも、気ぃ使って揺れんよう気をつけてくれたんも…

冷えピタ貼ってくれたんも、傍におってくれたんも…

全部、全部ありがとぉ…

あったかいんやな、1人やないってこんなにあったかかったんやな…

宮侑が、おって、ほん、まに…良かっ、たと、思てる、で…｣



段々と小さくなる声と言葉と共にAの意識は夢の中へと落ちていった。


だから知らなかったんだ。


侑が顔を赤くして口元を覆っていることなど。


誰1人として、侑自身さえもその表情の意味を知らなかった。

問題児93→←問題児91

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す