稲荷崎の問題児ちゃん2【ハイキュー】

問題児91 ページ46

侑はAの発せられた言葉に、Aの瞳から流れた涙に目が離せなくなった。


強い力で引っ張られている訳では無いのに何故か動けなくて。


Aが呟いた行かないでと言う言葉が侑の脳に流れた。


再度浮かせた腰を下げ座り直す。


Aの流れた涙をそっと、手で拭った。



侑｢…行かへんでは、ずるいやろ。

なんで、泣いとんねん…ばーか｣



Aの手は侑の袖を握ったままで。


侑はその手を握った。



侑｢行かんから、安心せぃ。

…ばかA｣



心做しかAの眉間による皺が少なくなった気がした。









Aはゆっくりと目を覚ました。


頭がズキズキして痛い。


小さな自分の夢を見た。


あの時感じていた思いも全部感じた。


風邪で弱っているからしょうがない。


(久しぶりに思い出したなぁ。

小さい頃なんかもう忘れたつもりやったんに…

いつから、こうなったんやろか。

いつから、うちは1人なんやろか。

いつから、もう諦めたんやろか…)


起き上がろうと手を動かそうとすれば不意に繋がれている左手に意識がいった。


それは侑で手を繋いで寝ているこの状況に理解が出来ず混乱する。


(なんでうちは、宮侑と手繋いどんのや…？)


ただ、その手を振りほどくことは出来なくて…



｢あった、かいなぁ…｣



そう感じるのは風邪で弱っているからだ。


そう思っていても手から伝わるその暖かさを確かめるように繋ぐ力を強めた。


涙が溢れてぽたぽた落ちる。


体を起こして、繋がれていない右手で涙を拭った。


これは風邪を引いてるせい。


なんてたくさん言い訳しながら溢れる涙を拭って。



侑｢…なんで泣いとんねん、あほ｣


｢…別に泣いとらん｣



いつの間にか侑が起きていて眠たそうに目を擦りながらAを見上げた。


そんなAは顔を見られないようにそっぽを向いて涙を堪えた。


その数秒後、くいっと引っ張られる。


急な出来事に抵抗することも無くそのまま侑に抱きしめられた。


少し不器用に、でも優しく頭をポンポンと撫でてくる。


その行動は自分は頑張ってると言われているようで、耐えたはずの涙は次々に侑の服へ染みを作っていく。


Aは弱々しく侑の袖を掴んだ。



｢ごめ…っ｣



侑は何も言わず、その代わり大丈夫だと言うようにAの頭を何度も優しく撫でてくれた。


部屋にはAの嗚咽だけが響いていた。

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