バンタン町の女神様。JN ページ9
JN side
でも、この日の俺はツイてた。
「………………あれ、Aさん？」
仕事帰りに寄るいつものスーパーで、昼間以来の彼女を見付けたのだ！
『…ソクジン、さん？』
違うのは、銀行に来る時にはいつも一つ縛りしている綺麗な黒髪が下ろされている事(どっちも好み)。
「銀行以外でお会いするのは初めてですね」
『はい』
話し掛けるか一瞬迷ったけど、今の俺はMG銀行支店長じゃない、ただのキムソクジンだ。
あれちょっと待って、仕事終わりの俺もハンサムだよね？
疲れてヨレヨレとかじゃないよね？
本社人事も認めるワールドワイドハンサムな支店長のままだよね？
…………コホン。
「いつもお買い物はこのスーパーですか？」
『はい、でもこの時間帯に来たのは初めてです』
こくりと頷いて、普通に会話してくれて安心。
なんで仕事以外で話し掛けてくるんだよとか思われてたら……俺立ち直れない。
「あの…これからまだお仕事なんですか？」
ふと見た彼女の買物かごには、今晩の食材というには多過ぎる量が入っていて思わず聞いてしまった。
するとAさんは、少し首を傾げながら言う。
『仕事と言えば仕事なような、そうではないような……』
いつも手続の時は淡々としてる彼女の、歯切れの悪い解答すら可愛く思う俺は大分やばいかもしれない。
「えっと？」
『明日は定休日なので、試作とか色々してみようかと思いまして…自分のご飯の代わりにもなりますし仕事と言うには……』
ニヤけそうなのを堪えて聞き返すと普通に教えてくれたし悩んだ理由可愛い。
「そうなんですね！
ヤー僕もAさんのお店行ってみたいんですけど中々時間が合わなくて……」
残念です。
いやもう本当に残念で仕方ありません。
大袈裟なくらいにそう言うと、彼女はいつも見るあの仕草をしてから少し躊躇いがちにこう言った。
『あの、もしよろしかったらなんですけど……
これからお店にいらっしゃいますか？
いつも経理でお世話になっていますし』
「良いんですか？！」
食い気味の俺に、普段全く動かない目元が僅かに見開かれる。
『はい、ご迷惑でなければ試作品のレビューも「しますさせてください！」』
いや、我ながらガキじゃないんだから……。
でも彼女は、特に変わった様子もなく“それではよろしくお願いします”と頷いてくれた。
これは……ついに“銀行員とお客様”から1歩踏み出すチャンスじゃないか？
気合い入れろ、キムソクジン！
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作者名：藤櫻 | 作成日時：2022年7月2日 22時
