バンタン町の女神様。JH ページ13
JH side
え、俺?
俺はそんな皆を眺めながら、拗ねる末っ子を慰めたり親友が倒したコップを片付けたりするのがお決まりのパターン。
……………………だと、思ってたんだけどね。
『こんにちは』
「いらっしゃいませ!」
あ、ちょうど商品の受け取りに噂の人物が!
うちは食品の卸売もしてるので、個人経営の飲食店のオーナーさん方も贔屓にしてくれる。
この方もそんな大切なお客様の1人だ。
「今回のご注文はこちらでお間違いないですか?」
明細の書類を渡すと、会釈してから受け取る丁寧な人。
彼女がAさん。
いつもマスクをしていて、艶のある長い黒髪と切れ長の瞳が印象的な、とあるカフェのオーナーさん。
そして、友人達の憧れの的で、俺の好奇心の対象。
『………はい、間違いありません
いつもありがとうございます』
「こちらこそいつもご贔屓にして頂いてありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げるこの仕草が、綺麗でミステリアスな雰囲気と真逆のなんというか…可愛らしさがあって。
「僕もいつかお店に伺いますね」
『光栄です』
礼儀正しさと淡々とした低い声がなぜかマッチしてて。
『………………あの』
「はい?」
『もし…お好きなお飲み物か食べ物があれば教えて頂けますか?』
「へ……」
遠慮がちに見上げてくる、キラキラした宝石みたいな黒い瞳に胸が勝手に高鳴って、吸い込まれそう。
見惚れて若干ボケ気味に答えると、彼女はうんうんって頷いて。
『分かりました、ご来店の際はそれをご用意しますね
お待ちしております』
また深く頭を下げて、柔らかい低音でそう言い残して商品を積んだ車で去って行った。
「…………あ〜………………………………」
赤くなったと自覚できる顔を手のひらで覆って、思わずしゃがみ込む。
なんでこんなに俺の心は揺さぶられてるんだ?
なんで興味が尽きないんだ?
マスクより上だけとはいえ冷たいほどの綺麗さとポーカーフェイスは、俺の好みのワンコ系女子とはかけ離れてる。
むしろ高貴な猫っぽい。
なのにどうして、毎回毎回新鮮な気持ちになるんだろう。
他の女性客と何が違うんだろう。
「これじゃもう皆を笑えないなぁ……」
誰も居ない裏口で苦笑する。
でもなんだろう……全く嫌じゃないから。
何とも言えないこの気持ちを、今度彼女のお店で確かめてみようって。
次に立った時の俺は、もういつもの笑顔を取り戻していた。
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作者名:藤櫻 | 作成日時:2022年7月2日 22時