love magic.2 ページ2
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ピコン、と軽快な音を立ててメッセージの受信を知らせたスマホを手に取ると画面に「着いた」という簡素な文が表示され、驚きと戸惑いで思わず『本当に来たんだ』と呟く。直後急かすように鳴り響いたインターホンに慌てて鞄を手に取り玄関扉を開くと、やたら爽やかな笑顔を浮かべた男が「久しぶり」と柔らかな声を紡いだ。
「あれ、インチキエリートが珍しく休みの日に出かけたかと思ったらA連れて帰ってきた」
『久しぶり、幸。会わない間にちょっと背伸びた?』
「まあね。Aは少し痩せたんじゃない?ちゃんと食べてんの?」
『食べてる食べてる。そうだこれ、お菓子買ってきたからみんなでどうぞ』
至に連れられ約一ヶ月振りに足を踏み入れたMANKAI寮は相も変わらず賑わっていて、いち早く私の存在を視認した幸にお土産を渡すと「Aさんお久しぶりです!」や「これ有名なとこの洋菓子じゃん!写メ写メ!」と次々に劇団員が集まってくる。気を遣ったのか「俺先に部屋行ってるから」と一言告げて談話室を出て行く至の後ろ姿を見送ると、入れ違いで総監督のいづみちゃんが顔を覗かせ「Aちゃんいらっしゃい!今お茶出すね」と可憐な笑顔を浮かべた。
MANKAIカンパニーでお手伝いを始めたのは一年程前。ヘアメイクアーティストとしてプロダクションに所属している私は普段俳優やモデル、アーティスト等様々なクライアントと仕事をしているのだが、ある日舞台観劇が趣味の女優さんと共に劇団を訪れた際に総監督の立花いづみと出会い、予算の関係で外部の人間を雇うことができないという話を聞いた。借金を返すのが精一杯だと苦笑する彼女に『良かったら私に任せてほしい』と詰め寄ったのには理由がある。
その頃の私は技術を磨くことはもちろんファッションに関する見聞を今以上に広めたいと意気込んでいた所で、舞台観劇もその一環だった。詰まる所舞台メイクがまだ未経験だった私にとって彼女の悩みは都合が良かったのだ。彼女は資金を使わず人を雇える。私は経験の場を得る。利害が一致していた。
唯一の誤算は疎遠になっていた元カレがMANKAIカンパニーに所属していたことだろうか。顔を合わせた当初はお互い驚いて言葉も出なかったけれど、そうか。あの再会からもう一年も経ったのか。
「Aちゃん?」と不意に名前を呼ばれはっと我に返る。不思議そうに私の顔を覗き込むいづみちゃんから「せっかくだし今日泊まっていかない?」と有難くも返答に困るお誘いを受け、数秒逡巡した後にゆっくりと頷いた。
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作者名:海空 | 作成日時:2017年3月17日 9時