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掴まれた腕はそれなりに痛い。わたしが振り返ってもユンギさんは何も言わないし手も離してくれない。ヤバい、これは本気で怒らせちゃったかもしれない。ジンくん助けて。ジンくんのせいだよ!

「ユンギさ、」
「Aは俺を、酔った女の子夜道に捨てるような悪い男にしたいわけ?」
「…ちがいます」
「………家の住所。家まで送られんのイヤなら最寄りでもいいけど。早く言って」

深く被ったニット帽から覗く目がわたしをハッキリと映した。お世辞にも優しいとは言えないその瞳に強ばっていると「A」とまた催促されて、慌てて家の住所を伝えた。ユンギさんの手が離れていった腕に残った熱は、痛みだけじゃなかった。こんな時にまで好きを自覚してしまう自分が情けない。わたしがユンギさんを怒らせてしまったのは事実なのに。もう一度ユンギさんに「ごめんなさい」と伝えたけれど、その返事はなかった。


沈黙のまま車が発進し、わたしの一人暮らしの家の前に到着した。会話はひとつもなく、苦しくて死ぬかと思った。ずっとずっと大好きな人に、嫌われたかもしれない。そう思うだけで涙が出そうだった。アルコールなんてもうどこかに消えている。

「着いたけど」

運転を終えたユンギさんは小さく息を吐くと、ハンドルに片手をかけたままわたしの方を見た。外に出なきゃ、と分かっているけど体がそれを拒否する。黙ったまま帰ればもっともっと嫌われてしまう。せめて謝りたい。

「…あの、ユンギさん」
「何?」
「ちゃんと謝らせてください」

わたしの声に少しだけ顔を上げると、ユンギさんはこちらに体を向けてくれた。

「…疲れてるのに、コンサートのあとなのに、こんな夜遅くに呼び出してごめんなさい。わたしがワガママ言って呼んでもらったんです。ジンくんには怒らないで」
「……それで?」
「それで、…えっと、…ほんとに、ごめんなさい」

長い沈黙が続く。返事のないユンギさんに痺れを切らしたわたしは、黙って車を降りた。
マンションのエントランスを潜る前、こっそり振り返ってユンギさんの車を見ると、まだそこに停まっていた。わたしが入るまでそこにいてくれる優しさが、今は痛い。

じわりと滲んだ涙を必死に抑えて、わたしは家に帰った。

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作者名: | 作成日時:2021年9月6日 12時

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