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Episode.1|米花町に巣食う悪魔 ページ5

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 何故自分はこんな契約をふたつ返事で結んでしまったのか。死んだ魚の眼の如く濁り淀んだ双眸を幾つか瞬かせ、彼女は声にならない後悔と後悔と後悔をひたすらに心中で呟いた。その隣で申し訳なさそうに肩を竦める紳士はおずおずと謝罪の言葉を口にするが、少女はそれを片手で軽く制す。


「いや、ことの発端は先生の気まぐれなんだから、広津さんが謝ることじゃない」


 芯は通っているし、何なら何処か凛とした涼しい声だったが、然し彼女の顔には表情と呼ぶことのできる表情は宿っていない。同情的に小さく頷いて、紳士――もとい広津柳浪は、少女――永井Aの視線を追って閉口した。


Episode.1|米花町に巣食う悪魔


 事の発端は数日前。その日Aがたまたま訪れたポートマフィア首領執務室で、たまたま鉢合わせた森鴎外に、たまたま数日後に行われるパーティーに行く予定だから、その護衛を頼みたいと依頼されたのがきっかけである。
 偶然の産物とは良く云ったものであるが、にしても偶然が重なり過ぎやしないか、とはAの訴えだ。

 とは云ったものの、この時点ではまだ彼女の眼は死んでいなかった。その深緋の瞳から生気が消えたのは、その二日後、鴎外の元に招待券を受け取りに行った時の事である。
 主催者、鈴木史朗。
 この文字を見た瞬間に顔を青くし厭だ厭だと駄々をこねるAを半強制的に連行して来た鴎外は、御満悦な様子で主催者に挨拶をしに行こうとAと広津を連れ前方を歩いている。そして今に至る。


「広津さん……だって、東都の財閥だよ? 米花町のだよ? 三歩あるいて当たるのは棒じゃなくて事件……そんな治安最低な場所に住む人たちの開催するパーティーが、何も起きずに済む訳がない!」
「現に私の目に付いた怪しい者は、少なくとも三人……」
「先生逃げて超逃げて」


 先をゆく鴎外の後を歩くAは小声で広津と言葉を交わす。会話の内容が理解出来ないと云った様子で、鴎外の隣を歩いていたエリスが頸を傾げた。

 横浜港から出港した豪華客船は既に東京湾を優雅に航行している。主催者の住む場は東都、開催地も東都。参加者の大半の住む場も東都である。
 逃れられない事件の匂いが、豪華客船という密室の中に立ち込めていた。

 →←Setting|永井



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羽倉 - こうも主人公として自然に神妙に造られているのを読んだことがなかったので、驚きました。面白かったです。ありがとうございます。 (2023年2月19日 13時) (レス) id: 06e22d481b (このIDを非表示/違反報告)
羽倉 - ただ組織の長であるからだけではなく、その人がその人であるから故に、割と側近の人であっても、その人の心を覗くことすら叶わない、という部分で、森鴎外が推しなのですが……なかなかその人に対して感じたことを、 (2023年2月19日 13時) (レス) id: 06e22d481b (このIDを非表示/違反報告)
冷々亭(プロフ) - Gugさん» こんにちはGugさん、前作に続き今作も応援頂きありがとうございます! リハビリも兼ねての投稿ですのでまだまだ拙い文章ですが、楽しんで頂けると幸いです^^ (2022年4月25日 18時) (レス) id: a606f59190 (このIDを非表示/違反報告)
Gug(プロフ) - お帰りなさい冷々亭さん!冷々亭さんの新作が見れてとても嬉しいです!更新頑張ってください! (2022年4月25日 16時) (レス) id: a3d4781212 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:冷々亭 | 作成日時:2022年4月25日 16時

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