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豪華客船は急遽東京港に碇泊する事になった。
偶然か必然か乗り合わせていた私立探偵・毛利小五郎が混乱に呑まれた船内で声を張り、どうにか乗客達に落ち着く様に呼び掛ける。Aはその声を遠くに聞きながら、その時初めてあの毛利小五郎が同じ船に乗っていた事を知った。
そりゃあ事件が起こる訳だ、と不謹慎ながらの発言は心の内に留めておくのみである。
Aは砕け散った照明の傍にしゃがみながら、ちらりと後方に視線を遣る。広津とエリスに両脇を固められた鴎外は、周囲を注意深く窺っている様子だ。
東京港への到着までまだ時間は掛かる。この場は未だ密閉空間である事は変わらず、同時に、鴎外の命を狙う者が同乗している事実も変わらない。
「最悪だ」
心内では抑えきれなかった言葉が喉を震わせ口から零れる。嗚呼、最悪だ。
地上とは隔離された空間に、最も敬愛する人の命を狙う不届き者と共に閉じ込められている。最悪以外の言葉が見付からない。
鮮血に濡れた硝子片を一つ摘み上げ、そうして視線を前方――深紅に染まる照明だったものの中心部に向ける。
床を覆う照明の破片の下には恐らく、見るも無惨な遺体が眠っている。何者かの悪意によって容易に奪われた命が、床を蝕む紅となって喪われている。
Aの感情の窺えない瞳がす、と細められた。
「潤える血の花。快楽と哀傷と。花のうてなに甘さの限りを吸ひたる『死』。
炎々たる焔の中なる楽器のさまざま。墳墓の緑色なす灯火に親しむ『死』」
流れる様に紡がれる言の葉は、果たして死者への弔いか、或いは。
「燐光の
「あの、破損した硝子は危険ですから、あまり触れない方が良いかと」
よもやこの状況で声を掛ける人間がいるとは。と云わんばかりに瞠目したAは、その眼を横へと流す。
つい今し方、突然の出現と既に判り切った忠告と共に、ごく自然な動作で自身の摘んでいた硝子片を奪い去った指の主は、Aの視線を受けて人当たりの良い笑みを浮かべた。
「嗚呼、突然すみません。気になったもので」
男はそう蒼眼を細めて、色素の薄い金髪を揺らす。
胡散臭い笑顔だな。一線を引いて様子を窺っていたAの最初の感想はこの一言に尽きた。
舌の上で転がしていた
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羽倉 - こうも主人公として自然に神妙に造られているのを読んだことがなかったので、驚きました。面白かったです。ありがとうございます。 (2023年2月19日 13時) (
レス) id: 06e22d481b (このIDを非表示/違反報告)
羽倉 - ただ組織の長であるからだけではなく、その人がその人であるから故に、割と側近の人であっても、その人の心を覗くことすら叶わない、という部分で、森鴎外が推しなのですが……なかなかその人に対して感じたことを、 (2023年2月19日 13時) (レス) id: 06e22d481b (このIDを非表示/違反報告)
冷々亭(プロフ) - Gugさん» こんにちはGugさん、前作に続き今作も応援頂きありがとうございます！ リハビリも兼ねての投稿ですのでまだまだ拙い文章ですが、楽しんで頂けると幸いです^^ (2022年4月25日 18時) (レス) id: a606f59190 (このIDを非表示/違反報告)
Gug(プロフ) - お帰りなさい冷々亭さん！冷々亭さんの新作が見れてとても嬉しいです！更新頑張ってください！ (2022年4月25日 16時) (レス) id: a3d4781212 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：冷々亭 | 作成日時：2022年4月25日 16時
