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部活が始まる前の第2体育館は、どこかそわそわと落ち着かない雰囲気だった。
「なぁ龍。潔子さん、バレンタインくれると思うか？」
「わからねぇ。神に願うしかないのでは？」
「俺見たぞ！月島がいっぱいチョコ持ってるところ！」
「げ、日向…」
「ツッキーいっぱいもらってたもんなぁ」
「予想通り、だな」
「だべ」
恐ろしいまでに影響を受けている日向、田中、西谷。3年生は様子見に来ていたが、予想通りだったようだ。
「大地さん、どうしましたか？」
「縁下か。いやね、今日は浮かれてるんじゃないかと見にきたんだけど…」
「予想を裏切らなかったなぁ。影山も何か固いし」
「去年以上じゃないかな、これ…」
楽しそうに後輩たちを見る3年生。そこに、清水がやって来た。
「これ、差し入れ。バレンタインだし」
「「ウオッシャァァァァァァ！！！」」
体育館に感激の声が響いた。
「「お前らうるさい！」」
━◈━◈━◈━◈━◈━
『こんにちは。何してるんですか』
凛とした声で、Aが澤村たちに声をかける。大方予想はついていたものの、確認といったところだ。
「片桐さん、今日は何の日だ？」
『バレンタインですけど』
「それでこれだ」
『なるほど』
体育館では、清水からの差し入れを拝める2人だったり、カタカタと震える人だったり、収集がつかない。
Aはそれ以上触れようとせず、先輩たちに『バレンタインです、いつもありがとうございます』とお菓子を手渡した。
「ありがとう」
「まじか！ありがとなー！」
「ありがとう。でもいいの？お返し、できるかわからないのに…」
東峰の言うことはもっともだった。ホワイトデーには、3年生は卒業してしまっているからだ。
『いいんです。私は先輩方に返せないほどのたくさんのものをもらいましたから。ささやかながらの感謝の気持ちです』
そう言って、Aは照れくさそうにはにかむ。「成長したなぁ…」と、彼らはしみじみ感じるのだった。
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作者名：七瀬月華 | 作成日時：2024年2月7日 17時
