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伊織の家に行くと、Aは真っ先に買った服に着替えさせられた。着替えて伊織たちの前に姿を表すと、彼女たちは感嘆の声を漏らす。
「やっぱり！良く似合ってる」
珍しく得意げな顔をして伊織は言う。 百合と夏実も、腕を組んで頷いている。
「ささ、こっちこっち」と伊織に誘導されて、彼女の部屋の机の前に座らされた。白い丸い机の上には、伏せられた鏡とさまざまな化粧品が置いてあった。
「一回やってみたかったんだよね〜。あ、目つむってて」と、Aに化粧をする伊織。百合と夏実も、これはどうだ、こっちはどうだ、と話していた。
あれよあれよと化粧を施されたA。「これでよし！」と言う伊織の声を合図に目を開く。3人の感嘆の声が聞こえた。
「え、いいじゃん。いいじゃん！」
「なんで今までメイクしんかったん！元はいいし、肌もきれいやし…。よぉ考えたらもったいない！」
百合と夏実から、訳もわからず責められるA。伊織に視線で助けを求める。が、彼女はニコニコと満足そうな顔をしており、助けは得られなさそうだった。
伊織セレクトのコーディネートは、アイボリーのケーブル編みボリュームニットに、くすみピンクのベルト付きマーメイドスカート。靴には編み上げのショートブーツを合わせる。
伊織が化粧をする間、百合と夏実はAの髪をいじっていた。いつも下ろすか、結ぶとて下でひっつめて結ぶだけだった彼女の髪は、編み込みハーフアップになり、髪ゴムの上にはポニーフックが刺さっている。
「え、めっちゃかわいいじゃん！」
スカートに合わせた色合いのポニーフックを見て伊織が言う。いつの間にか彼女の手にはスマホが握られていた。Aが気付き、制止をかける間も無く、撮影会が始まった。
━◈━◈━◈━◈━◈━
しばらくしてようやく撮影会が終わる。三人の要望でさまざまなポーズやら表情をとっていたため、すでにお疲れだ。伊織が鏡をAに差し出す。そこで、やっとAは自分の姿を見た。
『うわぁ…』
美しく引かれたアイラインに、きらめくまぶた。ほんのりと色づいた頬。紅を引かれたぷるんとした唇。濃すぎず、薄すぎずで、ちょうどよく華のあるメイク。伊織の技量の素晴らしさに舌を巻く。Aは自分の変わりように驚いていた。
「よし！ちょっと散歩しよう！」
着替えてメイクもして。おめかししたのにどこにも行かないのはもったいない。伊織に手を引かれ、彼女の家を飛び出した。
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作者名：七瀬月華 | 作成日時：2024年2月7日 17時
