プール5 ページ9
これまた予想以上。
彼女はノートと一緒に濡れてしまったメグの手を舐めた。…と思えば
｢あ、もぉこんなじかーん。友達と遊ぶ約束に遅れちゃう｣
カラリと笑顔を取り戻し、荷物をまとめてしまう。
｢じゃーねーめぐめぐ♪ これからも私だけのイケメグだよ！！｣
彼女がいなくなったあと、盛大な溜息を吐いたメグ。やがて目を開くと
｢…で、そこの不審者4人組は何か御用？｣
まあ、バレるか。
帰り道、メグは語ってくれた。
去年、多川に泳ぎの教練を請われたこと。
反復練習が嫌いな彼女は1度しか練習をしなかったこと。
そしてその夏、海で流されてしまったこと。
｢…それ以来、ずっとあんな調子。『死にかけて、大恥かいてトラウマだ』『役に立たない泳ぎを教えた償いをしろ』って｣
自嘲気味に笑うメグ。
｢テストのたびにつきっきりで勉強教えている間に…私の方が苦手科目こじらせちゃってE組行きよ｣
｢そんな。彼女ちょっと片岡さんに甘えすぎじゃ？｣
｢いいよ。こういうのは慣れっこだから｣
思わず口を挟んだカエデの心配も退け、俯くメグ。こちらもこちらで重症かもしれない。
ピッ
いつの間にか取り出したホイッスルをふく殺せんせー。私まで肩を揺らした。
【かみしばい 主婦の憂鬱】
あるところに1組の夫婦がおりました。
妻は働き者で真面目、家を回そうと必死でした。しかし、夫はギャンブル狂い･家庭内暴力･無精髭の三拍子が揃った下衆。今日も家賃を持って出かけてしまいました。
彼も夕刻になれば帰ってきます。手ぶらで。
チョコレート1枚へと化した家賃に妻は落胆。｢この先、どう暮らしていくのか｣という不安や絶望に気が狂れそうでした。
そんなとき、
｢見捨てないでくれよぉ…。俺、おまえがいてくれないと何にもできない奴なんだよ…｣
なんとも甘えた考え。普通なら捨てられてもおかしくありません。しかし、妻は…
｢…もうっ。ほんとダメな人なんだから…♡｣
…殺せんせーが書いた紙芝居に寒気が走る。
｢いわゆる共依存というやつです。あなた自身も依存される事に依存してしまうのです｣
｢ありうる…｣と呟くメグに殺せんせーは言った。
｢片岡さん、時には相手の自立心を育てる事も必要です｣
｢…どうすればいいのかな、殺せんせー｣
メグの弱音。付き合いは浅いが、きっと珍しいことなのだろう。
｢決まっています。彼女を自力で泳げるようにすればいい｣
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作者名：京陽 | 作成日時：2019年12月2日 11時
