プール4 ページ8
｢悪いんだけど読んでくれる、律？｣
泳ぎをやめ、溜息を吐きながら依頼するメグ。私も今は顔を水面に出している。｢はい｣と笑顔で返事をした律は
｢めぐめぐげんきぃー(^ ^)v じつゎ、またべんきょ教えて欲しいんだー♡ とりま、駅前のファミレスしゅーごー(ゝ。∂) いぇー☆彡☆彡☆彡｣
送り主の人物像を文面から読み取り、多彩な演技を繰り広げる機能までついたらしい。顔文字まで浮かび上がるようだ。
｢…以上です。知能指数がやや劣る方と推察されます｣
｢こらこら｣
そうは言っているが、記憶では多川心菜は中間テストで中の上程の順位に収まっていたように思える。勉強はできる方なのかもしれない。
｢…｣
ふと、メグの方を見ると表情が険しくなっていた。それも束の間、
｢…わかった。すぐいくd(^_^o) って返しといて｣
｢承知しました｣
｢じゃね、御三方。ちょっと用事ができちゃったから｣
メグはタオルとジャージを手にその場をあとにした。その後ろ姿を見送りながら、渚とカエデは言う。
｢…どうしたんだろ、急に｣
｢友達と会う割には暗い顔だね｣
水中から目から上だけを出す。プクプクと泡を出しながら、私もメグを見送った。
｢少し様子を見に行きましょうか。しっかり者の彼女なだけに心配ですね｣
私とメグが泳いでいる間にやってきた殺せんせーが言う。
｢皆から頼られている人は…自分の苦しみは1人で抱えてしまいがちです｣
4人(3人とタコ1頭)でメグを尾行(つ)け、近所のファミレスへやってきた。メグが多川心菜に勉強を教えているようだった。
｢めぐめぐE組だけど、私の苦手教科は得意だもんね｣
｢…ま、ね｣
多川心菜は予想以上に…なんというか、脳内にお花畑が広がっていそうな人物だった。
｢…あのさ心菜、私今やりたい事があってさ。もうクラスも違うんだし、こうしょっちゅう呼び出されると…ね｣
如何にもオブラートに包んだ言い方。相当多川に遠慮している。しかし、多川は
｢…何それ、どーゆー事？ もう呼ぶなって事？｣
｢…いや、そうは言ってないんだけど｣
｢…ひどい｣
メグが丸く収めようとしているところ、多川は言い放った。
｢私の事、殺しかけたくせに｣
カタン、という音と共に零れたコップの中身。先程の笑顔は何処へやら、身を乗り出して詰め寄っている。
｢あなたのせいで死にかけてから…私、怖くて水にも入れないんだよ。
支えてくれるよね？ 一生｣
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作者名：京陽 | 作成日時：2019年12月2日 11時
