南の島14 ページ49
彼は喧嘩が得意。E組に落ちたのも、当時中等部3年生だった先輩を痛めつけたかららしい。
しかし、今現在彼は苦戦している。
｢…どうした？ 攻撃しなくては永久にここを抜けれぬぞ｣
攻撃を止めた男が言う。漸く“ぬ”を正しく使った。
｢どうかな〜。あんたを引きつけるだけ引きつけといて、そのスキに皆がちょっとずつ抜けるのもアリかと思って｣
｢…｣
険しい顔。
｢…安心しなよ。そんなコスいことは無しだ。あんたに合わせて正々堂々、素手のタイマンで決着つけるよ｣
カルマは軽く構える素振りを見せる。男はそれに薄ら笑って
｢良い顔だぬ、少年戦士よ。おまえとならやれそうぬ。暗殺稼業では味わえないフェアな闘いが｣
と言った。男が構えたタイミングを見計らい、カルマは駆け出し派手な蹴りを見舞う。
攻撃の応酬が繰り返される中、私には些か不安なことがあった。
｢ねぇ、殺せんせー。あいつ多分…｣
言いかけた時、カルマの攻撃が男の脛を直撃する。男はそれを庇うように押さえ、しゃがみ込む。そして背中を見せた。
チャンス。誰もがそう思うだろう。カルマも男目掛け走り出した。
｢カルマッ！｣
スモッグとやらのおかげで唇も動かしにくい。私は最大限叫んだ。しかし、間に合わなかったようで…
ブシュッ
噴射されたガス。
｢一丁あがりぬ｣
カルマは呆気なく崩れ落ち、男はカルマの髪を掴んだ。コトッと床に落ちる物には見覚えがあった。
｢やっぱり…｣
｢長引きそうだったんで、“スモッグ”の麻酔ガスを試してみる事にしたぬ｣
私の不安の正体。殺し屋という生物は手段を選ばない。
｢拘る事に拘り過ぎない。それもまた、この仕事を長くやっていく秘訣だぬ。至近距離のガス噴射、絶対に防げぬ｣
カルマの頭を掴んだまま持ち上げる。このまま頭蓋骨を砕くつもりか。動こうにも動けず、ただ見ているしかできなかった。しかし、
ブシュッ
不意をつく。ガス噴射…それもカルマの手から。今度は男が倒れる番だった。
｢な…なんだと…｣
｢奇遇だね。2人とも同じ事考えてた｣
口元からハンカチを取り、愉快そうに笑うカルマ。私達は呆然とする他なかった。
男は青ざめた顔で、震える膝を押え懐に手を伸ばす。その手には光るもの…すなわちナイフ。
｢ぬぬぬうううう！！｣
カルマに襲いかかる男。しかし、カルマはそれを躱し
ドッ
床に叩きつけた。捻り上げた男の左肩から不穏な音がする。
｢ほら、寺坂。早く早く｣
そう急かすカルマ。
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作者名：京陽 | 作成日時：2019年12月2日 11時
