南の島12 ページ47
私達は正直、イラッとした。
｢何をお気楽な！！｣
｢ひとりだけ絶対安全な形態のくせに！！｣
｢渚、振り回して酔わせろ！！｣
｢にゅやーッ！！｣
ブーイングの嵐。渚は何も言わず、手にある袋を軽快な音を立てて振り回す。
｢よし、寺坂。これねじこむから、パンツ下ろしてケツ開いて｣
｢死ぬわ！！｣
赤い悪魔がここに1人。酔いに酔った殺せんせーを手に、良い笑顔。寺坂は目ん玉飛び出させてツッコんだ。
｢殺せんせー、何でこれが夏休み？｣
カルマから返された殺せんせーを持ち上げ、渚が問う。
｢夏休みとは、先生の保護が及ばない所で自立性を養う場でもあります。大丈夫、君達ならクリアできます。この暗殺夏休みを｣
殺せんせーは完全防御形態越しに言う。
引き返せないのは確か。ビッチ先生を頼ることが出来なくとも、生徒の中で1番こういう状況に慣れた私が動けなくとも、どうしようもない。殺せんせーの助言を信じ、突き進む。
私達は歩みを進めた。
寺坂に先導を任せる。一行の足が止まった。
私のいる場所からはその姿は見えない。しかし、彼等もそろそろ分かってきたはずだ。
｢…敵か｣
『気』を読み取る。殺し屋特有の空気感。
どう突破するか。実弾銃があれば、私でも何とかなったかもしれない。しかし、このホテルどころか島にすら持ち込んでいない。
ビシッ
するりと列の先頭に出た。そこには、男が作ったと思われる窓のヒビ割れ。おそらく、素手。
｢…つまらぬ｣
ガラスの破片を落としつつ、男は手を離す。
｢足音を聞く限り…『手強い』と思える者が1人も居らぬ。狐がいるはずなのぬ…だ｣
私の情報も敵さんは持っているというわけか。
｢どうやら…“スモッグ”のガスにやられたようだぬ。出てこい｣
見通しがよく、狭い。元々奇襲も難しかった。私は合図を出し出ていく。
先程の毒使いは“スモッグ”らしい。そして内部の情報にも詳しい。そして…
｢“ぬ”多くね、おじさん？｣
言った！！ 良かった、カルマがいて！！
皆が気になっていたことをストレートに言う。流石だ。
｢“ぬ”をつけるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだ。カッコよさそうだから試してみたぬ｣
確かに私も母国以外の文化に敏感だ。師匠に拾われ各地を転々とする中、色々な美を学んだ。
｢間違ってるなら、それでも良いぬ。この場の全員殺してから“ぬ”を取れば恥にもならぬ｣
男は指を鳴らす。
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作者名：京陽 | 作成日時：2019年12月2日 11時
