南の島11 ページ46
不破は人差し指を立て歩きながら説明する。その姿は推理ものでの探偵さながら。
｢皆が感染したのは飲食物に入ったウィルスから。ディナーを食べずに映像編集してた三村君と岡島君も感染した事から、感染源は昼間のドリンクに絞られる｣
｢それならそれで、そっちの娘も飲んでたはずだぜ？｣
男は屈み込んだまま動けずにいる私を親指で指さす。
｢それは大丈夫。前、A言ってたんだよね。毒盛られても大丈夫なように、ある程度は耐性をつけてる…って｣
そういえばそんな話もした。
巧妙に任務を遂行していても、一服盛られることなどざらにある。そのため、師匠の手によって主な種類の毒などには慣らされた。勿論例外はあるが。
｢従って犯人はあなたよ、おじさん君！！｣
｢ぬ…｣
決めゼリフを吐いた不破にぐぐもった声を漏らす男。皆が不破の推理力を褒め称え、メタい話題にツッコンでいる中、
｢…クククク｣
男が笑った。その瞬間力が抜けて身体が傾く。頭を打つ直前で押し留まった。
｢俺特製の室内ガスだ。いくら狐でも耐性はないだろうよ｣
｢ウィルスの開発者もあなたですね｣
殺せんせーが言う。
｢さぁね。交渉決裂、ボスに報告するとするか｣
男が踵を返した…が
ザザッ
皆が退路を塞ぐ。
｢敵と…遭遇した場合の指示ならっ…済ませてるよ。さっさと報告に帰りゃ良かったね｣
｢…フン。まだしゃべれるとは驚きだ｣
何とか立ち上がるが、ハッキリ言ってキツい。充分な殺傷能力がある。
上体を気力だけで起こした。男はまた布を口元にやり、攻撃の意思は読み取れる。
バッ
案の定、男はスプレーを繰り出す。しかし、そう上手くは行かない。
｢…ぅおらッ！｣
膝を思いっきり顔面に食らわした。男はあの声も出せぬまま倒れた。
しかし、
ドタッ
｢A！！｣
私の意識も危うかった。
｢…最悪｣
出口を塞ぐため持っていたものや男を片付ける。私はそれどころではなかった。
足が震える。
｢…何とか歩けるかも。でも戦闘はキツいかな｣
とにかくホテル側に訝しがられないように努める、それが今の私へのミッションだろう。
｢象をも倒すガス浴びて歩ける方がおかしいって｣
｢何気に化け物だよね、A｣
3階でダウンとは情けない。メグに支えられながら歩き出した。1時間をきれば問答無用で爆破、急ぐしか道はない。そんな厳しい状況下、
｢いやぁ、いよいよ『夏休み』って感じですねぇ｣
殺せんせーは1人呑気なことをほざいた。
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作者名：京陽 | 作成日時：2019年12月2日 11時
